ハートレスシティ 無情都市

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ハートレスシティ ~無情都市~ Heartless City 全20話 (2013年 韓国 jtbc)

■監督:イ・ジョンヒョ
■脚本::ユ・ソンヨル
■キャスト:
チョン・ギョンホ (チョン・シヒョン)
ナム・ギュリ (ユン・スミン)
イ・ジェユン (チ・ヒョンミン)
キム・ユミ (イ・ジンスク)
ユン・ヒョンミン (キム・ヒョンス)
チェ・ムソン (ムン・ドクペ / サファリ)
ソン・チャンミン (ミン・ホンギ)
キム・ビョンオク (天秤)

【あらすじ】
麻薬組織の幹部で、“博士の息子”と異名をとるシヒョン。一方、特捜部部長ヒョンミンは麻薬組織壊滅のため奔走していた。そんなヒョンミンの恋人ギョンミは“博士の息子”をあぶり出すために囮として組織に送り込まれるが、何者かに殺害されてしまう。ギョンミの妹スミンは、姉の仇を討つために潜入捜査官として麻薬組織に潜入する。だが、彼女が狙う“博士の息子”の正体はなんとシヒョンだった。互いに本当の姿を知らぬまま、シヒョンとスミンは少しずつ惹かれあっていくが…。

 


 

思いっきりノワールな世界に酔いしれました。
ラブコメも好きだけれども、こういうノワールな物語も大好きです。

ノワールな物語とは、はみだしてしまった者たちの物語なのです。
自由の代償にやすらぎや憩いを捨て、自分の足元に絶望と孤独の深淵が口を開けているのを十分に知っている男たちの物語なんです。
どこまでも闇に堕ちていきそうになりながらも、踏みとどまっている男たちの物語なんです。

時折シヒョンのその顔に、光がさす映像は、果てしなく闇に沈みながら、それでもその心は光を求めている彼の心情を表しているのか。
「この街を手に入れよう」と甘く優しく囁きながら、そのことに何の意味も見出していない男。
優しさと残酷さが紙一重のところで重なり合っている、そんな男。
そんな男に出逢ってしまったら、恋に堕ちるしかないのかもしれません。

そういう世界がお好きな人には、堪能できるドラマだと思います。

私は、本当にこのドラマに酔いしれました、かすかな胸の痛みと共に。
そしてこの痛みは永遠に癒えることがないのかもなぁ。
笑って逝ったあの人たちのことを考えると。

「無情都市」のラストシーン。
これは、アナザーエンディングと補完しながら観るべきかもしれませんね。
アナザーエンディングについては、別の記事で考察します。

★★★★★

 

 

■ 19話 「新たな事実」 ■
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建物の屋上でスミンはシヒョンに銃を向け、ギョンミを殺した殺したことを問いただす。その瞬間、狙撃されたスミンはシヒョンによって一命を取り留める。そんな中、黒幕が誰かを知って驚愕するシヒョン。アジトにスミンを連れていったシヒョンは、自分はギョンミを殺していないと伝える。サファリに会いに行ったシヒョンは、新たな事実を聞かされ、やり場のない怒りを覚える。一方、ヒョンミンは狙撃手が殺された事件の捜査を進めていたのだが・・・

 

とにかく19話はサファリでしょう。
「愛している」とどこか投げやりに、どこか照れくさそうに、どこか真剣にジンスクに語ったサファリ。
まるで自分の死期を悟っているかのようでもあり、彼の愛の告白が胸に響きます。
初めてジンスクに自分の気持ちを伝えたサファリ。
かつて、ジンスクはミン局長と恋人同士だったのでしょう。
自分の愛する女が選んだ男だということで、ミン局長に対して憧憬と尊敬を抱き、彼のような男になりたいと願い、言われるがままに潜入捜査官になったのじゃないかと、サファリの気持ちを考察しています。
ところがミン局長は自分の思ったような英雄ではなく、その裏の顔を知ったとたんに自分の目指してきた目的が失われたサファリ。
ただ生き抜くために裏世界を泳いできたのでしょうけれども。
全てを捨て去ったつもりでいたのに、ジンスクへの愛だけは彼の中に残っていて。
だから、彼はやっと見つけたジンスクへの愛を守るために殉死したのです。
釜山なまりで話すサファリに会えないなんて、泣けるなぁ~

 

 

 

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シヒョンとミン局長が極秘で会うときはいつも教会か、あるいは廃墟となった遊園地だったのですが。
この遊園地に思い入れが会ったのね、シヒョン。
ジンスクとミン・ホンギと楽しく笑い合っていた遠い日の思い出が、シヒョンを縛り付けていたのね。
廃墟となった遊園地は、そのまま壊れてしまった人間関係を表しているようでもあり。

手の中からこぼれおちていく遠い昔の幸せな思い出を、掻き集めようとするかのようなシヒョンに私の胸は痛くなる。
いつの間にかすれ違ってしまった3人。
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サファリとミン局長は、シヒョンにとって父のような存在であり、兄のような存在であり。
肉親の情愛に恵まれなかったシヒョンが、ただ愛を求めて、褒められることを求めて彼らの言うがままに裏世界に手を染めたのでしょうね。
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まさか、ギチョルまでもアンダーカバーだったなんて!
ミン局長がシヒョンの暴走を恐れてギチョルをつけていたことが発覚!
騙し騙され、裏切り裏切られ、利用し利用され、それでも確かにシヒョンとギチョルの間には絆が会ったと思います。
だから最後、ギチョルはミン局長に銃口を向けたんだよね?
シヒョンを守るために。

 

 

 

■ 最終話 「最後の決断」 ■
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サファリが殺され、シヒョンとジンスクは悲しみに暮れていた。そんな中、シヒョンがギョンミと幼馴染であり、潜入捜査官であることをスミンに聞かされるヒョンミン。事実を知ったヒョンミンはシヒョンに会って、真相を追究しようとする。一方、ミン局長はジンスクとヒョンスにシヒョンが潜入捜査官であることを告げ、2人は混乱に陥る。ヒョンミンはシヒョンに会い、チョ会長の情報が入ったUSBを受け取り、それぞれ最後の戦いに挑む。
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号泣。サファリ~!
残されてしまったジンスクとシヒョンの気持ちを考えると・・・

 

 

 

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ジンスクがスミンの正体を知り、そしてスミンとの縁を切る、と突き放す。
騙し騙されの関係だったけれども、やっぱりこの2人の間にも絆が出来ていて。
スミンがジンスクに語った言葉は嘘ではなかったと思う。

ナム・ギュリちゃん、とにかくジンスクとのシーンではいい演技をします。

 

 

 

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ヒョンスや~(号泣)
いくら刺されても、切られても死ななかった不死身のヒョンスが~(涙)

シヒョンが潜入捜査官と知り激怒するヒョンスだったけれども、やっぱりシヒョンのためにと単身チョ会長のもとに乗り込み、シヒョンの敵を排除しようとするのよね。
言わなくても伝わる男同士の思い。
「この街を手に入れよう」というシヒョンの言葉を、どこまでも忠実に守ろうとした男。
シヒョンのためには自分の命も投げ出す男。
なぜならシヒョンといれば楽しかったから。ただ楽しかったから。
お金でも名誉でも地位でもなく、楽しいという理由だけで、命をかけた男。
彼が守りたかったものはシヒョンだったのだ。
いつまでもシヒョンとヒョンスのコンビを見ていたかったのに・・・

 

 

 

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諸悪の根源のようなミン局長だって守りたいものがあった。
ジンスクへの愛を捨て、シヒョンへの情愛を捨て、何もかも捨てて、警察という組織を守りたかった男。
組織を守るためならば、邪魔になるものはたとえ自分の弟のように可愛がったシヒョンですら殺そうとする、その苛烈さ。
金にも名誉にも地位にも動かずに、世の中を変えることだけを夢みる夢想家が一番始末に負えないテロリストだろう。

 

 

 

 

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1話でシヒョンは地位の象徴である天秤が座っていた椅子を倒すシーンがある。
彼の目的は、麻薬を扱うサファリに復讐することでもなく、カンペを撲滅することでもなく、ましてカンペでの地位を求めていたわけでもなかったことが振りかえればこのシーンで表されていたのかな。

ただ彼は、幼いころに失った愛を求めていたんだろうな、この裏切りと憎しみが交差する無情都市で。
どこまでもその愛に飢えた柔らかい心から血をどくどくと流しながら、生きてきたシヒョンのことを思うと、彼のさびししい人生を思うとたまらなくなる。
シヒョンがスミンに惹かれたのも、彼女が普通だったからでしょう。
シヒョンが望んでも手に入れることができない普通の生活の象徴がスミンだったのでしょう。

満身創痍のシヒョンをスミンが助けたときから、文字通り絆創膏を差し出して助けたときから、スミンはシヒョンにとって”特別”だったのかもしれない。
そういう意味でも1話のあのコンビにのシーンも象徴的ですね。

振り返って考えると1話では象徴的なシーンが複線としてちりばめられた脚本家の意図が読めてきます。

 

 

 

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ジンスク。いつの間にかシヒョンを愛した女。
スミンがヒロインのように扱われていますが、「無情都市」での真のヒロインはジンスクでしょう。
シヒョンとスミンの関係を知っても決してなじらずに、自分の感情をそっと整理しようとする女。
シヒョンが潜入捜査官だと知っても、彼を包み込み、彼のためなら土下座ですらいとわない女。

傲慢で、率直で、度胸があり、冷淡で、優しくてナイーブで、ひたむきで、感傷的で、情愛深く、決断力がある女。
彼女がいたからこそシヒョンは生きていくことができたのだ。
スミンよりもはるかに奥行きの深い魅力を持ったヒロインでした。
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アジョシ。
カンペ・アジョシ。
チョン・シヒョン。
シヒョナ。
シヒョナ・オッパ。

名前を呼ぶだけで、スミンのシヒョンへの愛情がひしひしと伝わってくるシーン。
「愛している」なんて言葉がなくても、愛は伝えることができるのだ。
もう、この世にいないシヒョンの幻に向けての愛で、この物語はそっと幕を閉じる。

 

 

 

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残された彼女は、この無情都市で自分の生きる目的をさがしながら、生きていかなくてはいけないのだ。

 

 

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無情都市の雑踏の中にたたずむシヒョンの幻。
無情都市で生き急ぎながら、深淵に飲み込まれそうになりながら、決して自分の中の愛を捨てなかった男の物語なんです。
このドラマでは携帯電話が非常に効果的に使われています。
携帯電話についてはアナザーエンディングの考察で書きますが、「無常都市」のラストシーンがこの場面で終わるのも、意味があるように感じます。

 


その時々の、私の心の琴線に触れたモノ・・・ 小説や、映画、音楽、ドラマ、ファッションについてだけの簡単な備忘録。 Everything was beautiful and nothing hurt.

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  • コメント ( 4 )

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  1. リリハル

    はじめまして。いつも読み逃げさせていただいています。「純情に惚れる」でカン・ミノにやられ、「無情都市」を観て、博士の息子に堕ちました~
    アナザーエンディングをぜひぜひ観たく、でもレンタルDVDには入っていない(T_T)
    やはり、DVDBOX2を買わないといけないのでしょうか…。
    yucaさんはどうやってご覧になりましたか?

  2. yuca

    リリハルさま、コメントありがとうございます。

    わ~い、はじめまして!こんなネットの最果ての地へようこそです!
    そしてカン・ミノに堕ち、シヒョンに堕ちた同志!
    いいですよね、この2作。全然味わいが違うし、でも心を鷲掴みにされる感じがたまりません。

    さて、アナザーエンディングの件。
    レンタル版には入っていないのですか?
    私はこれ見たさにDVD購入したのよね(笑)
    あ、でもほんの2~3分でしたし、ほとんどのシーンをアナザーエンディングの記事でキャプチャーしています。
    ご覧になっていただければ、想像つくかな?

  3. リリハル

    yucaさま
    お返事ありがとうございます。
    やはり、購入されたんですね(*゚∀゚*)
    う~、短いんですよね。でも、観たい。
    どうしよう。ちょっと考えてみます。
    まだ、yucaさんの記事は読まずにいます(笑)

  4. yuca

    リリハルさま、コメントありがとうございます♪

    もしどうしても手に入らなかったら記事をどうぞ(笑)

    アナザーエンディングも興味深かったですよ。