ザ・キング:永遠の君主


ザ・キング;永遠の君主 The King: Eternal Monarch 全16話(2020年 韓国SBS)

■脚本:キム・ウンスク
■監督:ペク・サンフン
■キャスト:
イ・ゴン(イ・ミンホ)
チョン・テウル(キム・ゴウン)
チョ・ヨン ( ウ・ドファン )
ク・ソリョン ( チェ・ウンチェ )
イ・リム ( イ・ジョンジン )

2020年春、並行世界の門が開く―――
初めて行く所なのに行ったことがあるような気がする場所や、初めてすることなのに前に同じ事をしたことがあるような気がする感じ。
私たちはそれをデジャヴといい、現代医学はデジャヴを知覚障害の一種だとする。
ところがそれが脳の錯覚でないなら…
私たちがほんの少し、宇宙の秘密を垣間見たのなら?―――
誰でも一度くらいは考えてみたことのあること。
移民したい。生まれ変わりたい。人生終わった。
誰でも一度くらいは思うこと。
私もあんな車に乗ってみたい。私もあんな家に住んでみたい。私もあんな財閥一家に生まれていたら。
そんなあなたの耳元に誰かが囁く。
私よりマシな人生を歩んでいるもう一つの世界の私とあなたを変えることができたら、あなたはその人と人生を変えられますか?
私の人生。私の人。私の愛。その全てを捨てる選択。
もちろん自分自身すらも。平行世界の自分がどうなるのかは絶対に聞いてはいけない。
神は人間の世の中に悪魔を放ち、その悪魔は並行世界の門を開けてしまった。さあ、あなたはどんな選択をするのか。
露骨な質問と邪悪な答え。だから魅惑的な本作は、平行世界からこの世界に来た次元の門を閉めようとするイ・ゴンと誰かの人生。人を…愛を守ろうとする刑事テウルの協力が時にはドキドキ、時にはクールな次元の違うロマンスファンタジー。

 

 

2020年最大の話題作であったはずの「ザ・キング」
ロマンスとして視聴すればイラっとしてしまうけれども、物語としてはそれなりに面白かった。
色々言いたいことはあるけれども、最大の失敗はパラレルワールドとタイムリープを一緒にしてしまったことかな。物語が複雑になるにつれ、いたるところで展開の破綻が見られる。
キム・ウンスクが描きたかったのは、時空の中でさまようイ・ゴンの姿であり、彼が時空の檻から現時点に戻ってこれたのは、たったひとつテウルに対する愛があったから。
プロットは非常にシンプルなのに、肝心なロマンスが視聴者の胸を打たないならば致命的。
イ・ゴンが萬波息笛の中でパラレルワールドとタイムリープとさまようのは、クリストファー・ノーランの「インターステラー」の4次元超立方体テサラクトからインスパイアされているのか。
タイムリープの傑作は「ナイン」がある。
過去に戻ってやり直せばやり直すほど、現実が悲惨になっていくという「バタフライエフェクト」なタイムリープの傑作。
「ザ・キング」も過去をやり直せば現在が変化してしまうというのは、その通りなのだが、例外があってゴンとテウルの記憶だけは改変されないなんて。
萬波息笛の神様?の気持ちひとつで2人の記憶はそのままなんて、一番切なくなるはずの設定がスルーされて肩透かし。

 

 


ごめんなさい、この2人が恋仲だとはどうしても私には見えなかった。
ロマンスのケミストリーを感じられないので、視聴していて居心地が悪いことこの上ない。この2人が同じ画面にいなければ面白く視聴できたので、いっそのことロマンスなしにすればよかったのじゃないのかい? キム・ウンスクさん。
しかも後半、テウルは泣きっぱなしでうざい。
物語の序盤であんなにテウルはかっこよかったのに、恋をしたとたんなよなよして、このキャラクターは好きじゃない。
思い返せば「太陽の末裔」も中盤、ユ・シジン大尉が行方不明になり、めそめそしていたソン・ヘギョ(役名調べるのめんどくさい・笑)がオーバーラップしてくる。
キム・ウンスクのヒロインって、自立しているように見えながら、結局は男を待つだけのヒロインが多いなぁ。
前作「ミスター・サンシャイン」はヒロインが自立したという展開で、いかにキム・ウンスク作品の中で飛びぬけて傑作だったのかがわかる。
「ザ・キング」は先祖返りで、金持ちの男と普通の女の子の格差恋愛、キム・ウンスクの今までの作風通りの男を待つだけのヒロインだった。
このパターンは、もう時代遅れのような気がします。

 

 


ク・ソリョン総理の描き方もひどい。
女性として総理にまで上り詰めたのに、ガラスの天井を打ち破ったのに、彼女の野望は「皇后になって大韓帝国を支配する」なんて。
なんだかなぁ、このステレオタイプさはどうしたことなのか。
男との結婚がなければ、自分の夢は実現できないのか。
しかも彼女、結局このドラマにおいてどういう役割を占めていたのか、後半さっぱりわからなかった。
テウルの当て馬として登場して、イ・リムの陰謀に巻き込まれて、結局何もせずに、何の魅力もなく退場していった感じ。
ここまで酷い二番手ヒロインの描写は久しぶりだな。
「愛の不時着」でもそうだけれども、韓国ドラマのここ最近の2番手の描き方は奥行きが深かったのになぁ。なんとも残念。

 

 

 


さんざんこき下ろしていますが、やっぱりシンジェの記憶やウンソプの記憶がなくなったのはものすごく悲しくて。
テウルとゴンの記憶も、なくしたほうが良かったのではないだろうか。その方が絶対視聴者の心に響く作品になったのに。
過去にゴンとヨンが戻った時点で、チョン・テウルのIDカードが幼いゴンの手元に握りしめられるという過去はなくなり、そうするとゴンがあそこまで抱いていいたテウルへの思いもなくなったはず。
そうなるとね、考えるだけでも涙が出るじゃん。
なのに、なのに、どうして記憶を残しちゃったのかしらん。
あるいはパラレルワールドに行くたびに止まるまる時間が長くなるって・・・これも考えただけでも悲しくなる設定も、うまく生かしきれていなかったよね。
なんとも物語を形作る骨子が破綻していて、視聴者にドラマに没入することを妨げる。
やれやれ。
 


キム・ウンスクがパラレルワールドとタイムリープと設定を欲張りすぎて破綻してしまった「ザ・キング」
よく考えれば、いつの間にか家族が入れ替わっているなんて設定はジャック・フィニイの「盗まれた街」
このパラレルワールドを突き進めばよかったのに、イ・リムはかなり狡猾に帝国乗っ取りを進めていたのに、中途半端に終わったなぁ、この設定。
生きていく上で、何が怖いかというと人の心変わり。
夕焼けが色あせていくように、変わっていく人の心とはなんて不思議で恐ろしいものだろうか。そんなことを日々感じているのに、「ザ・キング」では入れ替わっているんですよ、自分の愛する人が、ある日突然。恐ろしすぎる。
そんな恐ろしいプロジェクトが進んでいる中、イ・ゴンは立ち向かう。
その気高い姿は、まあ、カッコいいよね。まさに夢の中の王子様を体現しているドラマです。

 

クールな面差しの中に限りなく繊細で優しい情感を秘めていて。
何があっても決して取り乱さずに、人前で涙はみぜず毅然として。
硬軟双方に強く何でもできて胸のうちにひとつに抑え、行動力も抜群。
人の弱さ、愚かさ、醜さも知りながら、しかし決して人に失望しない誇り高い男。
窮地にはまった自分の姿をどこか他人ごとみたいに眺め、降りかかった厄災を面白がりさえする。
その快活さはしたたかさを包んでおり、行き当たりばったりに見える行動は、実は強靭な集中力の結果。
多くの悲惨と屈折を経てきた者の明るさ、哀しさを、彼から感じる。
キム・ウンスクが描く男は、いつも水際立った格好良さを私たちに見せてくれる。

 

 


「ザ・キング」での大きな収穫は、ヨンがカッコよかったことでしょうか。
ゴンとの関係性を周囲から「ブロマンス」だとみられていることも知りつつ、ゴンを守り続けることがヨンのアイデンティティになっている。
どこまでも守り抜いたヨンが果てしなくカッコいい!
でも幼少期のぶーたれた口をしていた、あの子供がここまで涼やかな青年に成長するなんて1話時点では思ってもなかった!
ヨンの涼やかな成長がこのドラマで一番のミステリーだわ。

 

 

なんだかんだ言いながら、楽しんだ「ザ・キング」
恋愛ドラマとしてみなければ、ストレスもないし、世界の謎を解く物語としてはチャレンジングでかなり秀逸だったんのではないでしょうか。

 

★★★★

 


その時々の、私の心の琴線に触れたモノ・・・ 小説や、映画、音楽、ドラマ、ファッションについてだけの簡単な備忘録。 Everything was beautiful and nothing hurt.

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