偶然見つけたハル

偶然見つけたハル　Extra-ordinary You　全16話　（2019年　韓国MBC）

脚本：ソン・ハヨン、イン・ジへ
演出：キム・サンヒョプ
キャスト：
キム・ヘユン（ウン・ダノ）
ロウン（ハル）
イ・ジェウク（ペク・ギョン）
キム・ヨンデ（オ・ナムジュ）
チョン・ゴンジュ（イ・ドファ）
ナウン（ヨ・ジュダ）
イ・テリ（シン・ミチュ）

ダノ（キム・へユン）は財閥の子息たちが通うスリ高校の2年生。裕福な家庭に育ち、明るく優しい性格でクラスの人気者。学校のイケメン3人組“A3”の一人、ギョン（イ・ジェウク）とは婚約関係にあり、まるでヒロインのような人生を送っていた。そんなある日時間がタイムスリップしたり、自分の気持ちとは裏腹な行動をしてしまう現象に気づく。持病の心臓病と関係があるのかと心配になったダノは原因を探るうちに図書館で『秘密』というマンガを見つける。その中に描かれていたのは、なんと自分やギョン、クラスメイトたちの姿だった！謎の給食料理人ミチェ（イ・テリ）に自分たちが生きているのがマンガの中の世界だと衝撃の事実を教えられるダノ。追い打ちをかけるようにA3のナンバー1ナムジュ（キム・ヨンデ）がいじめられっ子のクラスメイト、ジュダ（イ・ナウン）に電撃告白。ナンバー2のドファ（チョン・ゴンジュ）もジュダに想いを寄せ、ダノは婚約者のギョンからも冷たくあしらわれてしまう。自分がヒロインではなくエキストラだったと知り、ギョンへの想いも漫画家が描いた設定だったことに気づく。そんな中、同じくエキストラ役だった出席番号13番の男子生徒（ロウン/SF9）と出会う。ストーリー上、自身が心臓病で命を落とすキャラだと知ったダノは、出席番号13番こそがストーリーを変える鍵だと確信し彼に“ハル”と名付けシナリオにない行動にうって出ることに！ミチェはストーリーを変えるとある弊害が起きると警告するのだが、次第にハルにも自我が芽生え始め…。

少女漫画が舞台なので、甘酸っぱい、胸キュンなシーンが満載で視聴していてこそばゆくなりながら、こんなに胸アツになるなんて。
アイドルドラマだと少し馬鹿にしていた私の頭をガツンと殴ってくれました。
この感覚は「ホワイトクリスマス」や「モンスター　私だけのラブスター」、「美男＜イケメン＞バンド」を視聴していた時と重なる。韓国ドラマ界のネクストリーダーがこのドラマから出てくるに違いないという感覚。
参りました！ただの学園ロマンスドラマと侮るなかれ。
ここに描かれるテーマが深くて深淵で、痺れます。

「偶然見つけたハル」の魅力はイケメンたちはもちろんかもしれないけれども、ヒロインのウン・ダノ！
このドラマ、なんと3話まではヒーローのハルはほとんど登場しない。
ヒーローなしの序盤をウン・ダノのマシンガントーク、底抜けに明るくシニカルな洞察、それでも「私はこの世界で私らしく生きたいんだ！」というゆるぎない信念で視聴者を引っ張っていく。
その演技力には脱帽。
すごくない？これって。
きっと「偶然見つけたハル」の視聴者の多くはロウンを期待して視聴していたのでしょうけれども、名前のないヒーローの存在をひしひしと感じさせつつ、いつハルが登場するのかを今か今かと待ちつつ、ダノの自虐的な独白に共感していく。
この時の展開、演出、何よりもキム・ヘユンの演技が見事すぎて。
コメディエンヌの才能全開。

ダノに名前を付けられたことで自我が芽生えていくハル。
このドラマって人生そのものを描いていないですか？
幼少期は自分を中心に世界が回っていると思っていたけれども、成長するにつれそんなことがないことに気づき。
理不尽で不条理な世界に自分が生きていることを知る。
誰かとの関係性の中で自分という人間を知り、誰かに認めて欲しいと願い、どこかに所属したいと願い、誰かのために何かをしてあげることが自分の存在理由だと知る。
少女漫画のわき役たちが登場人物なのだけれども、そんなヘンテコな設定を使って、人間の自我の芽生えを、存在を描き切った「偶然見つけたハル」
ロウンの演技のうまい下手が問われないハルというキャラクター。
むしろちょっとリアクションが鈍いところが、自我の芽生えで戸惑っているハルを表現できていたと思います。
純粋でまっすぐで、いつもダノだけを見つめ、恋い焦がれて、大切で、かけがえのないダノが自分の生きる意味だと知っているハル。
自分の存在をかけて愛するという姿を見せてくれました。
純粋すぎて、とっぽくて、あまりにもダイレクトな胸キュンのセリフ、しぐさにノックアウトされますよね、誰でも。画面のこちらの私でも心拍数あがるわぁ。

ギョンも不憫でしたけれども、あまりにもお子様でしたね。
大切な人を失うのが怖くて、ダノを自分に近づけまいとして怒鳴る、いじめる、無視する。
馬鹿だね。
にっこりと笑って優しくすれば、ダノはきっとギョンのことを本当に好きになったのに。
自分のことに精一杯すぎて、周りの人の気持ちに気づかないのが、青春かもしれませんね。
こうやってたくさん傷ついて、大人になる。
優しくなければ生きている意味がないと知る。

しかし、Ａ３のナムジュだけが最後まで白痴美だったのは、なんともシニカル。
そもそも「秘密」ってマンガがリアルにあたっとして、あまりにもステレオタイプな物語展開で、このマンガのストリー展開ひどすぎるわよね。
そりゃあ、登場人物が自我を持って、反乱を起こすのも納得です。
ギョンとナムジュは合わせ鏡の設定。2人で一人。
ナムジュの魅力が薄くなるのは仕方がないか。

「秘密」だけではなく、そこに前作のマンガも持ってくるという入れ子構造的な展開。
この史劇マンガの方が、私興味があるのですが。「王は愛する」みたいな展開で。大君と側仕えの物語に禁断の愛って、それだけでわくわくする。
どうやら漫画家はスターシステムをとっているらしく、毎回同じ顔の登場人物を描くらしいのもひそかに笑える。
ダノやドファやミュが作者に対して、人物描写が甘い、展開がべたすぎると悪態つくのも、メタフィクションの様相を呈していて面白い。
よく漫画家がキャラクターが生きていて勝手に動き出した・・・みたいなことを言う時があるけれども、「偶然みつけたハル」みたいなことがコマの余白（シャドウ）で起こっているのかと想像してみる。
同人誌って、原作の余白を読者が勝手に想像して描くものなので、その意味でもシャドウかもね。
この世にはシャドウの物語もたくさん存在している。

「偶然見つけたハル」の面白いところは、このドラマのテーマを突き詰めていけば「実在とはなんぞや」みたいな哲学論に行き着くところを、胸キュンという甘いコーティングをしているところかな。
何よりもダノの「私は私らしく生きていきたい」という切望が、テーマとなって胸に響く。
「私は私らしく生きる。だからあなたもあなたらしく生きることはどういうことなのかを考えて」というテーマ。
しっかりと受け止めました！

★★★★