ちかえもん

1
ちかえもん Chikaemon 全8話 (2016年 NHK)

演出:梶原登城・川野秀昭
脚本:藤本有紀
キャスト:
松尾スズキ(近松門左衛門)
青木崇高(万吉)
小池徹平(平野屋徳兵衛)
早見あかり(お初)
山崎銀之丞(黒田家久平次)
北村有起哉(竹本義太夫)

 

【筋書】
元禄16年(1703年)、浄瑠璃作者・近松門左衛門は以前ほど作品が受けなくなり、堂島新地にある遊郭「天満屋」に入り浸っていた。自作を上演していた竹本座の客足は遠のき、座長である竹本義太夫や周囲から不満をぶつけられ、新作の執筆も一向に進まずにいた。そんな折、「不孝糖」なる飴を売り歩く渡世人・万吉と出会い、万吉は門左衛門を勝手に相棒とみなす。2人のまわりで起きるさまざまな出来事をきっかけに、門左衛門は、戦国の世が終わって百年が経ち、大衆の求めるものはこれまで通りの忠義を主題とする歴史物語ではなくなっていたことに気づく。万吉や周囲の人々に振り回されてゆくうち、門左衛門は徐々に創作意欲を取り戻してゆくのだった。

 


 

ドラマと言うものはこういうものでないといけないということを、ドラマ視聴の醍醐味を教えてくれる「ちかえもん」
至福の時間を過ごすことができました。
物語はサバを食べさせてくれない親不孝な息子で始まり、サバを獲る親孝行な息子で終わる。
未見の方には何のこっちゃでしょうけれども、綺麗な円環の構成のみごとさ。しびれるぅ~
この物語は終始、親孝行とは何かを私たちに問いかけてきたのよね。

 

 

 

2
西鶴や芭蕉のように下の名前で呼んでもらえないことが、(確かに近松門左衛門は近松と呼んでいるよね、私たち)不服なちかえもん。
このエピソードで分かるように小心でいじましい近松の造形がこのドラマを一段と趣深くしている。
彼の心の中の声、ひとりツッコミとボケが最高です。
何度、彼の情けない心の声「え~言うんかい」とかで笑わせてもらったことか。
世の中はちかえもんの小心さでは耐えきれないほどのずうずうしさばかり。
ずうずうしさに振り回されながらも、世界の出来事から人間の生きていく業を掬い出し人形浄瑠璃の台本にするちかえもんは、実は誰よりも業が深い。
赤穂浪士の討ち入りに怯える心を掬いだしたり、心中する恋人たちの道行を掬いだしたり。
書かずにはいられない業を見せてくれます。

 

ああ、わしはあかん人間や。こないなときに涙も出ん。涙の代わりに言葉があふれてくる。言葉があふれて止まらん・・・言葉があふれて・・・止まらん・・・

 

そういうちかえもんの業を描きながら、でもね一番業が深いのは私たち視聴者かもしれない。
誰かが打ちのめされ、苦しみ、もがき、それでも愛さずにはいられないそんな登場人物たちの業を描くドラマを何よりも、心を揺さぶりながら楽しんでいるのだもの。

 

 

 

4
ええもんを見せてもらいました。痛快娯楽時代劇!
てな陳腐な言い回しは、わしのプライドが許さんのである!

 

 

登場人物全てが愛おしかったなぁ。
親に愛され認めてもらいたいのに親不孝で自分を表現してしまうあほぼんや、不器用な生き方しかできないお初。
彼らの孤独な魂が惹かれあうのは必然。
彼らは父の愛を見失ってしまった子どもたちと言う共通項があるから惹かれあう。
口は悪いけれども真実を見抜いているお袖、喜助の軽妙さと忠臣ぶり、天満屋吉兵衛とお玉の業つくなのに人がいい夫婦。
忠右衛門の屈折ぶりに喜里の飄々とした母親の心。
その中でも私がひそかにツボったのは黒田家久平次。
彼の歪んだ嗜好がそのまま「血まみれなあなた」というテーマでリトルプレスまで出した私の嗜好とクリソツなので大笑い。
そんな歪んだ黒田家久平次何かを生み出していく作家の業を、ちかえもんに対してなじる。
ちかえもんは自分の心を揺り動かした真実が、実は仕組まれたものだと知って怒るのです。
騙されたと言って怒るのです。ちかえもんを以下のように諭す万吉。

 

うその何があきまんねん。うそとほんまの境目が一番面白いんやおまへんか。
それを上手に物語にするのがあんたの仕事でっしゃろ?なっ?ちかえもん

 

万吉のこの言葉は、「平清盛」騒動に対する脚本家藤本有紀の矜持でもありましょう。

 
親孝行の定義は実はその時代によって大きく変わっていく。
でもね、あなたがあなたらしくこの時代に生きていくことが、自分の思うままに生きていくことが、親孝行なのだということを伝えている。
お家を継がなくても、仇討をしなくても、あなたが獲ってくれるサバこそが一番の孝行なのだと。
なんて、素敵な物語なのでしょうね。ほんとに。

 

あ、やっぱり陳腐なまとめをしちゃいました・・・

 

 

★★★★★

その時々の、私の心の琴線に触れたモノ・・・ 小説や、映画、音楽、ドラマ、ファッションについてだけの簡単な備忘録。 Everything was beautiful and nothing hurt.

  • コメント ( 8 )

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  1. この世の名残り(借金か?)の・FANです。

    ♪下駄を鳴らしてぇぇ~♪ やって来た・・・万吉は。
    そういうオチだったのか!!と、心中の結末のオチより、驚愕しました。

    そして、さすが!!THE・世界遺産の文楽。
    何年たっても曽根崎心中は、恋の手本となりにけり。
    この一言に尽きます。
    と、言いたいところですが、このドラマはそうとは言わさなかったのが、ナイスでした。

    でも、北村君の浄瑠璃は、お見事でした。
    吹き替え可と思うほど、朗々と謳っていましたね。
    流石、北村ジュニア、お父様の声を見事に受け継がれて何よりです。

    青木君、可愛かったなぁ・・。でも万吉、私ならお初より。
    高岡サキちゃんのおかみさんを、口説いて、一生食べさせて貰う道を選んだと思うワ。
    まあ、思いっきり無視されるだろうけどサ・・。
    (しかし、高岡ちゃんの和服姿は、蕩けるようにイイ女だ・・)

  2. むう

    yucaさん お久しぶりです~

    「ちかえもん」ご覧になってないのかなぁ?と
    思っていました。

    お正月の 木皿泉せんせいの「富士ファミリー」も感動しましたが
    「ちかえもん」は さらに 感動しました。

    時代劇 近松門左衛門 人形浄瑠璃という
    私にとって なじみのない世界を こんなに 興味深く見れるとは 思っていませんでした。

    時代劇ならではの 様々な着物、衣装や舞台装飾 セットが 本当に 美しい~~~

    主演の 松尾スズキさんの 演じる ちかえもんの 独り言、妄想のような ブツブツ 楽しく、上手い!!
    天使のような純真な「万吉」を 演じる
    青木嵩高さん も 上手い。
    義太夫を演じた 北村さん、お母さん役の富士さん
    演じた役者さんもですが 脚本、音楽、衣装、すべてのスタッフさんが 本気で挑んだドラマだったなぁ~~と 思いました。

    ラストを見て すべてが ちかえもんの 夢??妄想??を 見せられた???
    思ったりもしました。 

    長々と すみません

  3. yuca

    FANさん、コメントありがとうございます~♪

    あまりに遅レスすぎて、なんだか申し訳ない。
    ようやくブログを覗きに行く勇気が出ました。

    「ちかえもん」・・・いいドラマでしたよね。
    万吉の心の中の物語だったんだと。
    こういう美しい構成、脚本、演出、カメラワーク、音楽、替え歌サイコー!、俳優と全てがそろったドラマを見ていると、はやりだけのテーマをもてあそぶようなドラマは見れなくなる。

    やっぱりNHKクオリティ、いいよね。
    次はいつこんなドラマに出逢えるのか。
    そして高岡ちゃんは誰よりも魔性の女でした。

  4. yuca

    むうさん、コメントありがとうございます~♪

    す、すみません、遅レスで。いいわけもできないくらい、恥ずかしい。

    「ちかえもん」は一気視聴で見ました。むうさんも絶賛されていたから、楽しみだったのです。そしてまさに面白かった!
    >私にとって なじみのない世界を こんなに 興味深く見れるとは 思っていませんでした。
    なじみのない世界をどう身近にみせてくれるかという、脚本が素晴らしいですよね。
    替え歌サイコーです!
    一気に昭和のかほりがしてきますもの。

    >演じた役者さんもですが 脚本、音楽、衣装、すべてのスタッフさんが 本気で挑んだドラマだったなぁ~~と 思いました。
    本当におっしゃる通りで。
    こういうドラマがあるから、ドラマ視聴やめられないのですよね。
    NHKのクオリティ、視聴者にこびずにいいものを作りだす、その気持ちが私たちを感動させるのですよね。

  5. 倫理違反なんて、知らない・FANです。

    ゆかさん、ユカサン、聞いて下さい。

    あ、その前に、切羽詰まったご近況と推察しております。
    お元気ですか?と、訊ねない無礼は、お許しくださいませ。

    で、ですね。この歳になって、TVをリアル視聴しまして。
    滂沱の涙を流しました、久々に。

    トットてれび。
    流石、NHKなのか?黒柳さんの魅力に今更ながら気付くのか?という、諦念は、さておき。

    まぁ、このドラマの、説明を削ぎ落とした演出の、お見事なこと。
    ユカさんの感性に改めて感動した、その街の子供。あの、演出の井上剛さんが、創っておられるようです。

    ユカさんのお好みとは、チョット違うかも知れませんが、このドラマ。

    何となく、渡辺さんの語らない行間。あれに似ている気がしました。
    特に、昨日の、渥美清さんとの物語は、泣けました。滂沱の涙を久しぶりに流しました。
    思えば、こちらの、ちかえもん。これも、はかなさが際立ってましたよね。

    と、日本ドラマばかり、ご報告して居りますが。
    韓ドラも録画はしております。で?再生はしているの?

    ・・・・、って、聞かないで~。倍速再生で、速攻で、消去。
    そんな私が、韓ドラ日記のユカさんに、こんなコメントして、ごめ~ん。(韓ドラの括りだけでなく、R指定を規制したいのよ、FANさん?)

    あ、今回のご紹介については、大丈夫ですよ。だって、徹子さんd・・・。いえ、何も言ってません。
    兎に角、トットてれびは、面白いですよ。以上です。失礼しました。

  6. yuca

    FANさま

    やっぱりごぶさたすぎ。

    「トットてれび」
    ・・・あれ、私、春から夏にかけての記憶がない・・・

    しょぼん。

  7. しょぼくれても、FANです。

    @しょぼん。

    おほほ、しょぼくれたユカ様も可愛いこと、この上なしです。
    と、言うことで。どうぞ、お気になさらず。

    ブログ、それは、他人様の公開日記。
    勝手にコメントを送って、お邪魔しているのは、わたくしのほうです。
    どうか、ご返信に気疲れなさいませんように、と、切に願っております。

    と、その前に。
    ポケモンGOと、シン・ゴジラ。
    これらを熱く語る人を、どうやってスルーしたらいいのか?
    これっぽッチも興味が持てない自分に、、わたしは日々、ショボボボンです。

  8. yuca

    FANさん、どもども~♪

    >ポケモンGOと、シン・ゴジラ。
    そうそう、自己紹介でポケGOのレベルを言われても困ります。

    >これっぽッチも興味が持てない自分に、、わたしは日々、ショボボボンです。
    だよね~
    5月からの記憶が全くない私もしょぼんだよ。
    あ、でも浴びるようにBLとラノベは読んだ記憶がある。