賢者の愛

14232473_1245261825536369_315084802269231378_n
賢者の愛 全4話 (2016年 wowow)

■監督: 源孝志
■脚本: Sawa
■原作:山田詠美「賢者の愛」
■キャスト:
中山美穂(高中真由子)
高岡早紀(朝倉百合)
竜星涼(澤村直巳)
田辺誠一(澤村諒一)

【あらすじ】
高級ホテルの一室で、ある美しい青年の体をいとおしむように拭く、敏腕編集者の高中真由子(中山美穂)。密かに逢瀬を重ねるその青年は、親友・朝倉百合(高岡早紀)と真由子の初恋の人・澤村諒一(田辺誠一)の息子・直巳(竜星涼)であった。彼が生まれたとき「ナオミ」と名付けたのはほかでもない真由子である。その名に隠された彼女の想い―たくらみを誰も知る由もなかった。
30年ほど前―海辺の高級住宅街にたたずむ古い洋館で、13歳の真由子は編集者の父・正吾(榎木孝明)、母・美也(朝加真由美)、離れに住む作家志望の諒一と幸せに暮らしていた。そんな中、隣に同い年の百合が引っ越してきたことをきっかけに、真由子の人生の歯車は少しずつ狂い始める。何でも欲しがる百合に大切なものを奪われていく真由子。やがて社会人となったある冬、「諒一との子どもができた」という百合の突然の告白で幕を開けた、20年にも及ぶ真由子の復讐とは…。


 

谷崎の「痴人の愛」へのオマージュ作品。ドラマ放送前から「初恋の人を奪った親友の息子を、20年かけ調教する女」とのセンセーショナルな惹句で番宣されていました。
かなりドロドロした物語かと思いきや、哀しい物語だったなぁ。男女の愛憎のもつれというよりは、女の友情の難しさ、救いのなさ、それでいて歪な美しさを感じるドラマだったなぁ。
wowowドラマは豪華な出演者でチャレンジングな題材を扱うことに主眼を置きすぎて、肝心なドラマの出来具合は首をかしげてしまうものが多いような気がします。
しかしその中では「賢者の愛」は、私は好きです。

 

 

kenjya2
不幸を知らなかった少女高中真由子が親友百合にすべてを奪われていく物語。
父親も、あこがれの男性も、結婚も、幸せも、家も、人生もすべてを。
じわじわと奪われていくことに怯えながら、抗おうとする真由子。真由子の不幸は、真由子の痛みは、すべて百合がもたらしたものだと真由子は思っている。
しかし演じる中山美穂の、最盛期の彼女の美貌には見当たらなかった「老い」を感じる横顔を見ながら、ふと考えた。
人間は生まれた瞬間から、何かを失っていくことが人生なのだとしたら。
真由子がこの物語で失い続けていくのは、それは真由子の人生なのだと。
決して誰のせいでもなく、ただ失っていくことだけが私たちの人生なのだから。

 

 

kenjya1
真由子のすべてが欲しい百合。「ちょうだいオバケ」な百合。
自分の中にある空っぽな空洞を真由子が持っているものだけが埋めてくれると信じている百合。だから真由子が幸せであればあるほど嬉しい。だって彼女の幸せだけが自分の中の空洞を埋めてくれるから。
真由子と百合は歪な共依存関係です。
羨んでいるのか、妬んでいるのか、憎んでいるのか、憐れんでいるのか。
愛おしいのか、嫌いなのか。
当事者にも分からないそんな歪な関係。
真由子のモノが欲しいのではなく、真由子が欲しかっただけなのに百合は気づかない。
真由子から奪ったモノが自分のモノになったとたん、色あせて見えるのはなぜなのか百合は気づかない。
そんな百合を高岡早紀が好演。
この物語は実は百合の物語だったのだと思う。濃密な友情の物語。
男たちはまるで刺身のツマのような、そんな存在感の薄さだった。

 

 

kenjya4
間取りフェチな私は真由子の家が非常に気になって仕方がない。海の見える鎌倉の家。
こんな家に美少女が住んでいたら、百合のように彼女のすべてが欲しくなるに違いない。

 

原作者の山田詠美は男女の性愛についてあますところなく描き出す作家だと思われがちだけれども、「ベッドタイムアイズ」のころから女同志の強い執着を描いてきた。
「ずっと前から愛していたのよ。あんたは私の執着したただひとつのものだったのよ。だから、いつもあんたの付属品まで愛してきたわ。あんたの何もかも知りたかったのよ」
マリヤ姉さんのキムへの愛の告白は、「賢者の愛」では百合の「真理ちゃんのすべてをちょうだい」という告白の変奏曲なのだろう。
「調教」というセンシャルなイメージでこのドラマは語られるが、テーマは女同士の執着。そしてやっぱり「痴人の愛」と同じように愛に囚われた人間は、愛に殉じていくしかないのだ。
痴人も賢者も愛の前では大した違いはない。
たとえどんなに愚かしいと言われても。
愛に殉じるしかない。

 

ドラマは原作よりもスイートで、優しい。
原作はもう少し男たちの、つれなさが、愛を割り切って生きているから。

 

★★★★

その時々の、私の心の琴線に触れたモノ・・・ 小説や、映画、音楽、ドラマ、ファッションについてだけの簡単な備忘録。 Everything was beautiful and nothing hurt.

  • コメント ( 1 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. Liu

    yucaさま

    はじめて、メールします。いつも、yucaさんの
    独自の面白い解釈に唸りながら、楽しく読ませて頂いています!
    ずっと、お声をかけられなくて、すみません。。

    先日、「ホグの愛」と、「賢者の愛」を見たばかりで、
    強烈な愛の形を続けて見て、めまいがしそうです。

    「賢者の愛」は、女の友情というか、
    もはや、二人だけの世界で。

    百合が女の子を産んでたら、どうなっていたでしょうね。

    真由子のような女性に育てるのでしょうか。
    でも、百合って、真由子以外には、愛も興味もないですよね。

    私は、「帝王の娘スベクヒャン」も大好きで、
    女性同士の憧れや嫉妬。
    あなたになりたかったと奪う側の女性に、
    なぜか、惹かれてしまうんです。。

    yucaさんの、「決して誰のせいでもなく、ただ失っていくことだけが私たちの人生なのだから。」という言葉に
    個人的なこともあって、涙が出そうでした。。

    少女時代のシーンでは、岩館真理子を連想したり…(あの完璧な家!)
    最後は、「ベニスに死す」を思い出したり。。

    切ないドラマでした。
    しばらく、忘れられないドラマになりそうです。