僕らのメヌエット(妹妹)

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僕らのメヌエット 全13話 Apple in your eye (2014年 台湾)

■監督:チェン・ロンフイ
■脚本:シュー・ユーティン
■キャスト:
ラン・ジェンロン(ダイ・ヤオチー)
アンバー・アン(チョウ・ジーウェイ)
アン・ジャー(ユエン・ファン)
クリスティーナ・モー(ファン・シャオミン)

【あらすじ】
男の子を切望する母のもとに生まれた三女ジーウェイ。近所のダイ家に可愛がられ、ダイ家の一人息子ヤオチーを兄のように慕って育つ。高校生になりヤオチーを好きなっていたことに気付くが、想いを伝えられないまま、ダイ家は台北へ引っ越してしまう。それから10年、ジーウェイはヤオチーとの再会を夢見て台北へ。幾多の困難を乗り越え、再会を果たすが、ヤオチーには同棲している彼女がいるのだった!それでも10年間の想いを伝えようと奮闘するジーウェイだったが、ヤオチーにとっては可愛い妹のようなもの。そんなある日、2人に関わる重大な出来事が、高校時代に起こっていたことを知る…。


 

愛の絶頂で断ち切られた愛はどうなるのだろうか?

 

これは。
これは確信犯的な作品だと思います。しびれるわ~。
あらすじを読むと、幼馴染の素直になれない男女の恋物語のように思えるでしょう。
ところがその展開が10話あたりから微妙にずれてくるのです。何度泣いたことか。
ドラマってこうじゃなきゃだめだと思います。予定調和なんてかったるい。

 

 

この「妹妹」は「僕をどうか好きにならないでおくれ」というお話なのでしょうか。
いずれにしろシュー・ユーティン作なので、いろいろ文学的な仕掛けが満載で、ダメな人はダメだし、好きな人は好きというマニアックなドラマなのだと思います。
1話冒頭から、瞬間の愛を永遠の愛にするには・・・なんて哲学的ですしね。
互いを想う時間が長いほど出逢った時の愛の瞬間を短く、そして一番燃え上がった時に断ち切れば永遠の愛になる。
たとえその心からどくどくと血が流れようと。みたいな愛し方は賛否両論あると思いますが、ある種の愛のカタチではあります。
このドラマではそんな血がドクドクと流れるような愛のカタチを描いていくのかしら。

 

なんて2話で考えていましたが、まさにその通りです。
絶頂で断ち切られた愛はあまりにも痛く、狂おしく、ただ茫然とするばかり。
1話でパフォーマンス・アーティストのマリーナ・アブラモヴィッチの「The Great Wall Walk 恋人たち——万里の長城を歩く」の引用で始まったこの物語はもしかして、「The Artist is Present」で締めくくるのかもとうっすらと思っていたのです。
そして最終話。
やはり「The Artist is Present」が引用されました。

 

 

 

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覚えてる?
「愛」をとこしえの長城に刻んだ物語を。
主人公の男と女は最も美しい形で別れた。
それから何年もあとに・・・女はまた物語を書いた。
知らない人を5分間見つめ続ける物語だ。
ひとりにつき5分間。知らない人を見つめるの。何も言葉をかけずに。

そしてある日、とても見なれた姿が彼女の視界に入ってきた。
それは彼。
女の心の伴侶だ。
ふたりは互いに見つめ続ける。
5分の間。
言葉は交わさす懐かしむように。

ダイ・ヤオチー。
私たちは必ず再会できる。
それは2025年かもしれないけれど。

 

涙なしには見れない。心が震えて止まらない。
号泣です。
これは男のロマンシズムの物語ね。
愛と結婚は違う。
どうしても愛は変貌してしまう。
変貌して情愛になるのか、憎しみになるのか、無関心になるのかはケース・バイ・ケースだと思うけれども。
ヤオチーは愛の絶頂で自らその愛を「永遠」の中に閉じ込めることにした。
お金で苦労するジーウェイを見ていたくなかったから。
母親のように愛に疲れ変貌していくジーウェイを見ていたくなかったから。
だからジーウェイがいなければ自分は生きていけないことを知りつつ、それでも愛の絶頂の記憶を美しいまま閉じ込めるために別れを告げる。

 

英題の「Apple in your eye」とは5分間何も語らずに互いの目を見つめ、互いの目の中に愛の絶頂の陽炎を見るということなのね。
こういう愛し方、愛のカタチはなかなかドラマでも見ないような気がする。

 

 

 

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悲劇その7 “さよなら”を言い忘れる
悲劇その8 過去がすべて過去になるとは限らない
悲劇その9 順序を間違えると後悔する
悲劇その10 自分を縛っているのは自分の心だ
悲劇その11 夢の中でも幸せに怯えている
悲劇その12 いい人を愛したこと

 

ヤオチーのダンディズムは「いい人」であること。
おそらくそれは「いい人ではない」父への反発であろうし、「いい人」である祖母への敬慕なのでしょう。
しかし「いい人」と愛は両立しないことをこのドラマでは見せてくれる。
なぜなら愛はエゴイズムだから。
例えファン・シャオミンが泣き叫ぼうと、ユエン・ファンがすがりつこうとその手を振り払い互いを選ぶということ。
愛は選択の連続。誰かを傷つけるということ。
愛よりも皆にとって「いい人」であることを選ぼうとするのはヤオチーのダンディズムでしょうね
。親に捨てられたヤオチーにとって「いい人」「頼れる人」であることだけが唯一のアイデンティティだから。
それが彼がこの世界に生きているという意味だと思っているから。
愛は、愛とは彼にとって手に入らないものだったから、ずっと。
愛でもってジーウェイと共に生きていくということは、彼女とどこまでも落ちていくということは彼が彼でなくなることなのね。

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愛の不可思議さも「妹妹」では見せてくれる。
好きでも何でもなくただ成り行きでジーウェイのボーイフレンドの役を引き受けたユエン・ファン。
人懐こい、この純真なある意味ドンくさい女の子なんか退屈しのぎに過ぎなかったのに。
元カノみたいに一緒にいるだけで恋しくて気が狂いそうになるような存在ではなかったのでそばに置いていたのに。
いつしかジーウェイに執着している自分がいて。
ジーウェイが自分の元から去ろうとすると怒りがこみ上げてしまう。
ジーウェイのくせに。ジーウェイに心動かされる自分を腹立たしく思いながら、それでもジーウェイを手放すわけにはいかずに。
監禁してしまう。
執着のカタチが愛のカタチに変化していくさまは鳥肌。
愛しているわけではないのに、すべてが腹立たしくて、手錠をかけてつないでおけばいつかはジーウェイが自分を見てくれるのかと思ったのか?

監禁されているジーウェイがヤオチーを巻き込むまいとして叫んだ「再見」にも号泣。
この時のジーウェイは普段のトロくさい彼女ではなくて、気高くて神々しかった。
誰をも傷つけまいとして。ヤオチーもユエン・ファンも。
でも自分のありったけの愛を「再見」という言葉に込める。
必見です。
「妹妹」最大のクライマックス。

 

そしてその山場を乗り越えた後のユエン・ファンの気持ちの変化にも泣けてくる。

 

 

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登場人物全員が、どんな脇役にいたるまで彼らの人生があり彼らの喜び苦しみがあることが描かれていく。
話のつじつま合わせに出てくるキャラクターがいないの。
だから彼らが語る言葉がどんなにひどい言葉でも、そのバックボーンがわかるから共鳴してしまう。
そんなこともあるよね、って。
恐るべし脚本家のシュー・ユーティン。「我可能不會愛你」も鳥肌が立つほど好きですけれども、この「妹妹」は細部に至るまで綿密に計算されて書かれているのよね。
脚本の妙に酔いしれる。

 

 

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ラストに関しては視聴者それぞれのご意見があるでしょうけれども。
絶頂で断ち切った愛のカタチを見せてもらえて私は感動しました。このドラマのほろ苦さを愛しています。
実は断ち切ったあとがのたうちまわるくらいに苦しいのですけれどもね。
決して癒えない傷跡を心に残し、想い出なんかにはならずにじくじくとした甘美な痛みになっていくのですから。
またこのドラマは誰かと繋がっていくということもテーマでした。
例え別れても、でも心に抱える痛みで持ってヤオチーとジーウェイはつながっている。

「妹妹」はクロネコヤマトがタイアップしているのだと思うけれども、スポンサーさえをも上手くドラマの筋立てで使っているのよね。
荷物を運ぶ宅配便(そういえばジーウェイの父は郵便局員だよね)は実は、人と人との心と心をつなげる仕事なのだと。
「妹妹」のポスターも登場人物たちが手をつないでいる全景。私たちは繋がっているのだ。
それぞれの心にいろいろな傷を抱えながら。そう考えただけで泣けてくる。
やっぱり好きだなぁ、このドラマ。マニアックなドラマですけれども。

OMG★★★★★

 


 

上記で紹介した「The Artist is Present」
愛の絶頂で断ち切られた愛のその後を見ることができる。

 

 


感想+考察

その時々の、私の心の琴線に触れたモノ・・・ 小説や、映画、音楽、ドラマ、ファッションについてだけの簡単な備忘録。 Everything was beautiful and nothing hurt.

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