大丈夫、愛だ

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大丈夫、愛だ It’s alright, This is Love 16話(2014年 韓国SBS)

■演出:キム・ギュテ
■脚本:ノ・ヒギョン
■キャスト:
チョ・インソン(チャン・ジェヨル)
コン・ヒョジン(チ・ヘス)
D.O(EXO)(ハン・ガンウ)
イ・グァンス(パク・スグァン)
ソン・ドンイル(チョ・ドンミン)
ヤン・イクチュン(チャン・ジェボム)

【あらすじ】
大学病院の精神科医、チ・ヘス(コン・ヒョジン)は、医師としては優秀だが怒りっぽくてやや難のある性格。ある日、以前同じ病院で勤務していた先輩で、現在は開業医のチョ・ドンミン(ソン・ドンイル)の住むシェアハウスに引っ越す。そこには、ドンミンの患者で、トゥレット症候群を患いながらも明るく気のいいパク・スグァン(イ・グァンス)も同居していた。そんな中、ヘスはドンミンの代役としてテレビのトーク番組に出演することになる。
対談相手は、チャン・ジェヨル(チョ・インソン)。猟奇殺人の描写が多い推理小説の流行作家。スタジオの客席には、ジェヨルを慕う小説家志望の学生、ハン・ガンウ(D.O)の姿も。番組が始まると、ジェヨルは精神科医をからかうような発言をする。応戦するヘスとの間で激論が続く中、ヘスは、心理学の問題を出す。番組終了後もその問題について考えるジェヨルは、いつしかヘスに興味を持つようになっていく…。


 

ノ・ヒギョンはストイックなまでに愛のカタチを追い求めている作家だと思う。
愛によって傷つくことを恐れる、しかしそれでいて愛したい愛してほしいと全身で叫んでいるようなそんな物語を紡いできた作家だと思う。
タイトルにノ・ヒギョンの物語の大きなテーマのひとつ「愛」という言葉をてらいもなく用いて、軽やかに、決して深刻にならずにさらりと「愛」を通しての人生って何かを問いかけてくるドラマだった。
韓国ドラマの脚本が深みがないことを嘆き、シンデレラ、キャンディ・キャンディ的なヒロインばかりのドラマたちに憤りを感じ、その反動でドラマの多様性を追求するあまりにエンターテイメント性をそぎ落とすような作品作りをしていた彼女が、いつのころから軽みの中に人生の深さを描くようになったのだろうかと。
「大丈夫、愛だ」を視聴しながらずっと考えていた。
「大丈夫、愛だ」はロマンスとミステリーが融合された序盤から肌触りがよく、さらっと視聴できるようなそんな仕掛けが施されている。

 

 

 

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「愛している」「私は愛してなんかいない」
「別れる」「本気で言っているの?」「別れに慣れている男だから」
みたいな(うろ覚えなので正確なセリフではないですけれども)軽いセリフの応酬から、付き合いはじめた男女の恋愛の駆け引き、機微を楽しむ前半部分。
「愛している」というジェヨルの言葉は、精神科医として様々な愛によって精神の均衡を崩した人々を見てきたヘスにとっては恐ろしいし、たまらなく甘美。
責任を持てないから「愛している」なんて言葉は軽はずみにでも言えないし、まるであいさつのように「結婚しよう」というジェヨルの何でもないように言葉を紡ぎ出すから却って怖くなる。
いつか心変わりをするかもしれない、そうジェヨルと自分にそのたびに言い聞かせる。
愛を簡単に信じられないヘスはめんどくさい女だし、愛を軽く告げるジェヨルは真意がよくわからない男。
そんな矛盾した二人がおずおずと不器用に近づきあっていくさまは微笑ましくって、ドラマの中の序盤から中盤にかけては大事件が起こるわけでもないのになんだか気になって気になって、続きを見ていくのよね。
しかしその軽い展開の奥底に、深遠なミステリーが隠されているのだから。

 

 

 

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視聴しているとおそらく4~5話あたりからこのドラマは・・・と気づく仕組みになっているけれども。
「大丈夫、愛だ」はノ・ヒギョンが毛嫌いする韓国ドラマの視聴者軽視のエンターテイメント性(マクチャンドラマ)に真っ向から反論するような構成になっている。
恋愛の障害を階級の差(家柄の差)、親の反対、復讐などの外部的要因をよりどころとして描くのではなく、内部的要因にしているところが凄いよね。
外部的要因のエピソードの積み重ねで、傷ついてしまう私たちの心(内部的要因)が恋愛の障壁になってしまうという構成。
浮気をする母、障害者の父、母を浮気相手に売って大学の学費を得るヘスの心の傷。
「親も子供の恨になる」というノ・ヒギョンの死生観が色濃く出ているのが「大丈夫、愛だ」
韓国ドラマを見ながらいつもうすうすと感じていた、親という存在の桎梏さをここまで深刻に描いたドラマがあっただろうか。
ジェヨルがなんらかの傷を抱えていることは、彼の偏執狂的なまでのインテリアを見たら1話から分かるよね。
ヘスのエピソードはノ・ヒギョンの過去の投影だろうし、ジェヨルの傷は重すぎる。
この世界に生きる私たちは誰だって心が欠けているし、傷をつけている。
それを病んでいるという言い方はしたくない。
人は欠けている存在なのだとそう思っている。欠けているからこそ、その欠落が愛おしい。
シェル・シルヴァスタインの「ぼくを探しに」のかけらを離して欠落したまま、世界をへと歩み出す「ぼく」の傍らに同じように欠落したまま一生懸命歩み出す誰かがいたならば(それが恋人であれ、友人であれ、家族であれ)、そういう人生が愛おしいと思う。
私たちは完璧でなくていいんだよとノ・ヒギョンが語っているような「大丈夫、愛だ」
シンデレラのようにお金持ちでなくてもいい、玉の輿でなくてもいい、美人でなくても(コン・ヒョジンは雰囲気美人だけれども)、パーフェクトな家族でなくてもいい、傷つき傷つけあっても、欠落を抱いたまま私たちは歩んでいるのだと。
そんなメッセージを私は感じる。

 

 

 
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人々は
愛する人がいないときは愛がほしくてたまらず、
愛する人がいるときには愛が壊れるのを恐れ、
つねに焦り、不安なものだ。
だからいま、この瞬間、
愛する人が隣にいても
愚かなわたしたちは孤独なのだ。
(「グッバイ・ソロ」より引用)

愛によって欠けた私たちの心をゆっくり癒すのも、誰かを愛することであり、自分を愛することなのよね。
「おやすみ、チャン・ジェヨル」と言ったジェヨルのまなざしを思い出すと泣けてくる。
自分の中にある大きくて深い闇を彼は受け入れ、認め、そうしてようやく眠りにつくことができたのね、と。
誰でも欠落を抱え、孤独を抱えているけれども、愛することができるならば、誰かを何かを愛することができるのならば、それだけで人生は色濃く豊かになるのかもしれない。

 

「愛していない人は、全員有罪だ」とノ・ヒギョンはかつて言っていたけれども、このドラマの登場人物たちは自分から愛を与えることによって愛を得ることができ、そして孤独という牢獄から逃れることができたのかもね。

 

 

 

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おやすみなさい、チャン・ジェヨル。
おやすみなさい、友よ。
おやすみなさい、私。

 

 

 

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「大丈夫、愛だ」よりも脚本家のノ・ヒギョンのことばかり語ったような気もしますが。
このドラマのヒロイン、コン・ヒョジンは雰囲気美人だと思います。
決して絶世の美人ではないのだけれども、その雰囲気、そのまなざし、その演技でいつも私を圧倒する。
ヘスがジェヨルの闇と向き合い、そして彼に愛していると告げた時。
口元が震えていたことに嘆息。
ここまでの演技ができる女優なんてそうそういないですよね。
軽やかにシリアスな演技ができる稀有な女優さんだと思うわけです。
チョ・インソンがイっちゃってる演技が卓越なのは言わずもがな。
ジェヨルの柔らかな物腰の憶測からひたひたと迫りくる闇の演技も圧巻。
他のキャストもよかったなぁ。

意志疎通さえあれば、血はつながっていなくても、人間は支え合ったり親近感を抱いて生きていくことができたりする。いい意味での個人主義、地域主義が求められています。
そんな新しい共同体の可能性を、わたしたちは表現していく必要があると思います。
(ノ・ヒギョン)

まさに「大丈夫、愛だ」は家族主義を否定せずに、新しい共同体を模索したドラマじゃなかったかしら?

 

 

 

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蛇足ですけれども、コン・ヒョジンのファッションはどれもかわゆかったなぁ。スタイルがいいので、どんなお洋服でも着こなすのですよね。
12話で着ていたブラック・ワンピースは、Comme des Garconsのブラックエプロンワンピース。
下に着ているのは赤いドットのロングスリップドレス。
かわゆいなぁ。

 

 

★★★

その時々の、私の心の琴線に触れたモノ・・・ 小説や、映画、音楽、ドラマ、ファッションについてだけの簡単な備忘録。 Everything was beautiful and nothing hurt.

  • コメント ( 9 )

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  1. ひめか

    本当に、今まで私はノ・ヒギョン作家はシリアス過ぎて敬遠していたのですが、これはどこか表面がサラッとしていて、でも実は奥深くて、表面が乾いたのに、奥がジクジクと化膿している傷口みたいなドラマ。猫の爪で作った傷は、そうなるようですよ。お医者さんが言ってました。(笑)

    とにかくみんないい人たちで、そのそれぞれの抱えた傷によって苦しんだり、自分を守ろうとしたりする人たちの話ですね。

    いいドラマでした。
    私もコン・ヒョジンさん大好きなのですが、最近ちょっと軽いタッチのラブコメが続いたので、久々本領発揮という感じがして嬉しかったです。(*^_^*)

  2. yuca

    鍵コメさま、コメントありがとうございます♪

    はじめまして!こ、こんなネットの最果てのまったりブログに遊びに来てくださってありがとうございます。

    し、しかも文章を好きって言ってくださって、非常に汗が出ております。
    おっしゃられる通りに、ノ・ヒギョンが軽さの中での重みをここまで見せてくれて、すごいなという感動の気持ちでいっぱいでした。このドラマ。
    両極をあわせて描写するというのは、もう神業としか言いようがない。
    ひとつひとつのエピソードも美しく繋がっていき、彼女の作品のモノローグの美しさは、まさに詩ですよね。

    人生の機微をそっとすくって見せてくれる作家さんだと思います。
    私がこのドラマを見ながら感じたことを、鍵コメさまも感じられていたと知り、ちょっと嬉しいです。

    >コン・ヒョジン
    いや、本当に上手い女優さんだし、相手の表情を通して視聴者に自分を美人に見せていくテクニックを持った女優さんですよね。
    このドラマ、本当にすごい芸達者な方ばかりで、心に染み入るドラマとなりました。

    またお時間のあるときに遊びに来てくださいませ。

  3. yuca

    ひめかさん、コメントありがとう♪

    >実は奥深くて、表面が乾いたのに、奥がジクジクと化膿している傷口みたいなドラマ
    軽さの仲の重みが凄みがありましたよね。
    私も「フルーツポンチ」やお兄ちゃんのあの不器用な愛に悶えましたよ。
    心の傷を無理やりさらけだして癒そうとするのではなく、傷は傷のままでいいんだよ、傍らにいるよといった作者の柔らかな思いが好きです。

    ひめかさんと今回一緒に視聴できて楽しかったなぁ。
    そういえばfutonさんもこのドラマの感想をアップされていましたよね。
    私たちが同時期に同じドラマを見るのって初めてじゃないですか?
    それもまた嬉しかったです。

  4. はる

    yucaさん、こんばんは

    最近視聴したラブストーリーでは
    久しぶりにサクサク進みました。
    ノ・ヒギョン作家の作品いいですね〜
    yucaさんの、『4〜5話から気がつく』
    何かが気になってこのドラマを視聴したの。

    ドラマでは、サイコパスはよく出てきますが
    精神分裂症、障害を持つ父、お金の為に浮気する母、素行障害ですよ
    何重にも重なる心の傷を
    悲しく優しく、奥深い物語
    脚本が、俳優を選ぶような
    難しい役柄を、あったかく演じてて
    幾度か涙が溢れました。
    チョインソンのカメラワークも
    凄いけど、その美しさを引き立てるような
    感情表現に、参りました。
    こういう役は、本当にハマり役だと思います。
    素行障害の兄ちゃんの
    演じてないような演技

    どんな役にもハマり役にしてしまう
    ソン・ドンイルの存在も
    ドラマを愛おしくさせました
    ラストの『自分への大丈夫?おやすみ自分』
    これから、自分に問いかけて眠りにつきたいと思います。

  5. yuca

    はるさん、コメントありがとうございます♪

    じわじわと胸に響くドラマですよね。これだけ重いテーマのドラマを、軽く(悪い意味ではなくてね)描いて見せてくれる。
    その脚本家の手腕に脱帽です。
    「その冬、風が吹く」よりもはるかに心に染み入るよね。

    はるさんのおっしゃる通り、どの役者さんもハマり役で。
    お兄ちゃん役のヤン・イクチュンに関してブログではあまり書いていませんが、彼の心のわだかまりとなった事件。
    愛を上手く伝えられない彼の不器用さ、涙さいたわ~

    >ラストの『自分への大丈夫?おやすみ自分』
    自分で自分を愛してあげようね、という作者の強いメッセージを感じます。
    私はここにいていいんだと。そういう温かい承認にあふれたドラマだよね。

  6. 何よりも私が、大丈夫だろうか?・な・FANです。

    ・・・大丈夫って、何が?
    (タイトルに突っ込んでいる時点で、大丈夫か?私・・。)どうなんだろう、このドラマ・・私は、大丈夫な部類に入れるのだろうか?
    と、とりあえずBS放送を録画貯金しているのですが。

    おお、そうだ!このドラマ、ユカさんはご覧になっておられました。しかも!
    良品では有るが名作とは仰っていない。ユカさんの潔さが大好きです。あら?

    でも、総じて見ると。
    映画でも無く、舞台にも無い、連続ドラマの醍醐味って、その曖昧さに有るのだった。そうだわ、それを潔く紐解かれるから、私はユカさんのFANになったのだった。
    (今更、もういい。)あら?何か仰いまして?

    で、このドラマに興味を持ったのは、ユカさんの以下のご感想 ↓ 。
    @この世界に生き・・・・欠けている存在なのだとそう思っている。

    ここで、このドラマを見たいと心を掴まれました。と、その前に。

    色々と欠け過ぎているFANといたしましては。まず、視聴してからコメント送信しよう、こんなコメントが。
    まず?何よりも大丈夫か?と反省したのでありました。
    ※ユカさん、バッサリ切り捨てても、大丈夫です。私もコメントの山場に挑戦します。 

  7. yuca

    FANさん、コメントありがとうございます♪

    あまりにもブログほったらかしすぎて、レス返しに時間がかかっております。お許しを。

    >良品では有るが名作とは仰っていない。ユカさんの潔さが大好きです
    感動したくせに評価が低いという不思議な作品。どうしてでしょうね?
    まあ、評価なんて恣意的なものなので、今年の超スローペースのドラマ視聴の私にとっては評価は低くなりがちなのですよ。

    >色々と欠け過ぎているFANといたしましては。
    そんなことないですよ。というか欠けているからこそ、人間て面白いなぁと思っています。
    でもどうしてドラマの人物はその欠け具合に愛おしさを感じるのに、仕事関係の人はその欠け具合が腹が立つのでしょうね?(笑)
    私も欠けているのでね。

    欠けていると言えば、いつも私は内田善美の「空の色ににている 」を思い出します。
    ご存知だと思うのですが、あのマンガで、人は欠けていてもいいんだという強い慰めをいただいたのですよね。

  8. 内田センセ何処へ、な・FANです。

    八甲田の真っ最中であろう、ユカさん。お疲れ様です。

    わたくしも、何となく疲れるこのドラマ、8話まで貯金解約しました。
    ヒロインが巧いですね、まなざしが深い。主役さんを見つめる痛々しい視線に、何かが隠されているんだろうと、ジワジワ食い込んで来ます。

    主役さん兄弟と母の歪さの薄さは、まあ、気にしないでおこう。
    恐らく、キャプ上から3枚目の僕ちゃんが、このドラマの鍵となる存在なんだろう、と気付き始めたら、結末が楽しみに思えます。
    ま、ユカさんも最終回まで頑張って居られたようだし、頑張るのよ、私!

    でもなぁ・・、幻の内田センセの欠け具合には、追いつけないでしょう、多分。
    ああ、リデル、あの緊張感と圧迫感。岡崎センセとは違う意味で、怖かったなぁ。お正月とかGWに読むと後悔するんですよね。

    このドラマに、そこまでの力が有るんだろうか・・。(ま、無いだろう、だって出演者全員、妙にお洒落な服ばっかりで、現実感が無・・) 気のせいです。

  9. yuca

    FANさん、どもども~♪

    八甲田山というか、風邪をひいてしまっています。長引くのよ~
    FANさんもお気をつけあそばせ。

    >幻の内田センセの欠け具合には、追いつけないでしょう、多分。
    リデルは何度読んでも、奥が深くって、そのたびにいろいろ気付くのよね。
    凄い話だと思います。

    私の野望はですね、内田善美さんの新作を読みたい、「七つの黄金郷」の最終話を読みたい、「はみだしっ子」の続きを読みたいです。
    どれもかなえられないから、夢なのよね。

    ドラマにあまりハマれないので、少女マンガを読んで過ごしています~