キルミー・ヒールミー

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キルミー・ヒールミー Kill Me, Heal Me 全20話 (2015年 韓国MBC)

■監督:キム・ジンマン、キム・デジン
■作家:チン・スワン
■キャスト:
チソン(チャ・ドヒョン)
ファン・ジョンウム(オ・リジン)
パク・ソジュン(オ・リオン)
オ・ミンソク(チャ・ギジュン)
キム・ユリ(ハン・チェヨン)

【あらすじ】
普段は優等生で誰にでも慕われるチャ・ドヒョンは、7つの人格を持つ多重人格障害に悩まされるのだが、その中でも出現頻度が最も高いシン・セギという人格に手を焼く日々を送る。そして、スンジングループ最大株主で名目上の会長であるドヒョンの祖母、ソ・テイムは経営権を守るためにアメリカに留学していたドヒョンを韓国へ呼び寄せる。しかし、セギは帰国する条件にスンジン建設の社長の座を要求し、ドヒョンはそのことを知らない。スンジン建設の現社長であり、ドヒョンの父親の従兄弟であるチャ・ヨンピョは息子のギジュンにドヒョンの弱みを探すように命じ、ギジュンはクラブのVIPルームでドヒョンの歓迎会を開く。
そんな中、“オメガ”というペンネームで活動している天才推理小説作家の双子の兄を持つオ・リジンは、病室から逃げたホ・スッキを捜すためにクラブへ行き、ドヒョンと再会するのだが、その時ドヒョンの体に宿っていた人格はセギだった。


 

コメディとメロドラマのハイブリットドラマである「キルミー・ヒールミー」、面白かった。
非常に感動したり胸をうたれたりしたのだけれども、リトルプレスのバタバタで感想を書きあぐねているうちに記憶があいまいに・・・
スミマセン。

 

 

最初からドヒョンの人格障害の根底には幼児虐待があることは推察されるけれども、そこから一ひねり、二ひねりしてくる脚本の展開は凄いです。
何よりも「チャ・ドヒョン」という名前にどんな意味が込められているのかを知った瞬間に鳥肌が立ちました。
ありきたりの展開だなぁと思っていた己の不明を恥じます。
何よりも圧倒的な愛の物語だったよね。
圧倒的な愛の物語であることをコメディ部分で照れ隠しに隠しているけれども、そもそもドヒョンが人格障害になった理由を突き詰めていくとその愛のカタチの全貌が見えてきてその圧倒感にひれ伏す。

 

 

 

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「キルヒル」を視聴しているといつもいつも一つの小説のことを思い出していました。
「屋根裏部屋の花たち」(V.C. アンドリュース)という作品。
個人的には思春期のエロティシズムが感じられるゴシック・ファンタジーロマンの金字塔であると思っている物語。
ここまで怖い本は読んだことがない。
かつて少女たちはこぞって本書を買っていたもの。

 

古い大きな邸宅、美しい兄妹、繰り返される罪、監禁、狂信的な祖母、飢餓、禁忌、若く美しい母。

 

これでもかというほど、ゴシックロマンスのテイストを詰め込んでいる物語にはご都合主義の展開も見受けられるけれども、その奥に作者の人間への冷めた視線が感じられる。
一番この世で素敵なものは、人間の心。
一番この世で恐ろしいものも、人間の心。
ゴシック・ロマンの体裁をとっているが、何故か非常に、普遍的なものを秘めていて、そのことがものすごく怖かった。
同じことが、今も、どこかで、起こっているに違いないと思わせるのよね。

 

ざっとあらすじを紹介すると。

1950年代のアメリカ。「私」、キャシー・ドーランギャンガーはなにひとつ不自由のない、しあわせな少女時代を送っていた。「私にとって、人生とはすばらしい真夏の一日のようなものだった。」私には優しい兄クリス、双子の弟と妹、そして誰よりも素敵なパパとママがいた。ところがある日、思いもかけない不幸が私たち一家を襲う。交通事故で最愛のパパを失ってしまったのだ―。その日を境として、あとに残されたママと4人の子供たちの運命は一変した。着の身着のまま、母の実家のヴァージニアに向けて出発した5人だったが、過去の過ちで勘当されていた母のために、私たち4人は壮大な屋敷の屋根裏部屋に閉じ込められてしまった。この屋根裏部屋から出られる日はすぐに来ると信じながら―。

 

この作品の子供たちも屋根裏部屋に閉じ込められ虐待され続けるわけです。
主人公のキャシーは結局、幼少期を異常な抑圧状態で過ごしたために空想と現実の折り合いをつけることができずに、成長後も幼少期の空想の世界へ逃げ込んでいく。
現実の自分を失っていくだけなのね。

 

 

屋根裏部屋と地下室の違いはあるけれども、実の親から受ける虐待というのは打ちのめされるよね。
家族という病は密室の中で存在するもので、その密室の中では何が起ころうと他人はうかがい知ることができない。
そして一番の被害者はいつも子供たちなのだから。
では親が諸悪の根源かというと、実はその親も彼らの親から虐待を受けていたという虐待の連鎖が繰り返されているのよね。
「キルミー・ヒールミー」は実はそういう家族という病にも言及した骨太な作品だと思います。
結局ドヒョンやリジンを虐待してきた事件の決着はなされていないけれども。ドヒョン母や祖母の功罪はうやむやなままだけれども。
それでいいのだと思います。
韓国ドラマってこれまでも過去の因縁への復讐に囚われていく登場人部たちが描かれてきました。
そんな中、復讐よりも今の自分たちを愛し癒していくことが大切だと語った物語は珍しいのではないかしら。
復讐は何も生み出さないことは自明の理であり、「癒し」を前面に打ち出してきたテーマは復讐が信条のかの国にとって何かが変わってきているのかもしれないと思わされました。

 

 

 

 

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セギをはじめとするドヒョンのすべての人格がただ一つ、リジンを守りたい、幸せにしたいという思いから生まれ来たことを知ると涙が出そうになるよね。
この世の不条理、危険、暴力から彼女を守るためにセギが生まれ。
早く大人になりたいとの思い、かつての自分の父のように子供(リジン)に接したいとの思いからフェリー・パク。
アン・ヨソプはリジンの暗い闇を引きうけて代わりに死にたいと思うことで生まれ、アン・ヨナはリジンに女友達を与えたいという思いから生まれ。
ナナはリジンそのもの。そして迎えに来ないリジンの父の代わりに新たな人格を生み出す。
すべてがリジンのためで。
圧倒的な愛だよね。自分という人格を失ってでもリジンを助けようとするドヒョン。
そしてやっぱり「チャ・ドヒョン」という意味を考えると、泣けてくる。
すごい愛だよ。

 

 

 

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リオンもいいよね。オ・リオン。リジンのたった一つの輝ける星(Orion)だった兄。
彼女の暗い闇を温かい記憶に塗り替えていく。
その長い闘い、男としては報われない、しかし家族としては十分に報われている愛に不覚にも胸がしびれてくる。

 

 

 

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チソンの圧倒的な演技、パク・ソジュンというニューフェイスの台頭に比べるとファン・ジョンウムはいつものようにコメディエンヌ部分と泣きの演技を一気に引き受けて演技自体には新鮮味はなかったかもしれない。
しかしリジンというコメディとメロのハイブリッドな(笑)存在は、私たちに「人間て癒されることができるのだ。どんなにつらい境遇にいても」ということを見せてくれたと思う。
人生っていろいろあってどん底なこともあるけれども、時として死にたくなることがあるかもしれないけれども、それでも私たちはその傷を癒すことができるそんな強い力を持った存在なのだということを思い出させてくれるそんなヒロイン。
タイトル通り「キルミー・ヒールミー」のテーマを一貫して、最期までぶれることなく見せてくれましたよね。

 

 

★★★★★


その時々の、私の心の琴線に触れたモノ・・・ 小説や、映画、音楽、ドラマ、ファッションについてだけの簡単な備忘録。 Everything was beautiful and nothing hurt.

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  • コメント ( 2 )

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  1. choco

    yucaさん こんにちは
    朝からyucaさん 2件も記事が・・・
    働き者!!と思う反面、発送やらの雑事も抱え・・・どんなに体力あるの~と、感心しきり・・・w

    キルミヒルミ おまとめ・・・お待ちしておりました!
    さすがのyucaさん! 分析、考察力におそれいっていございます~~
    私の中で、ふんわりボンヤリ感じていたものが まさに この様に言葉になっているなんて~しゅてきです!
    こんなネットの海に沈んでるなんて 勿体無さすぎます! 共同通信社あたりから 声かかりませんか??w

    ということで、yucaさんの記事だけで おなかいっぱいなんですが・・・少しだけ・・
    私も あの分裂した彼らの名前の由来には感動!!でした。
    特に、フェリーパク(ずっとペリーパクと 思ってましたが・・・w)・・・
    あのキツイおばあちゃんから離れて、自由に生きたかった父の夢の象徴・・それは、後に壊れてしまったけど思い出の中に残る優しい父への思慕でもあったのかと・・・じ~~~んと、きました。

    そして、もちろんチャドヒョンですよね・・・失われた子供・・・かんどーです!!!涙・・・涙・・・

    最初はドタバタと 単なる 分裂した他人格とヒロインとの 三角関係のお話と見せかけ・・・(ジキルハイドはそれのみで終わりました) 最後まで見ると リジンを見守る 温かいお話に全てが繋がっていました。心憎い脚本でしたね。

    で、一つ・・・リジンとドヒョンは 厳密にいえば 義兄弟??(血の繋がりはなくても)  もう、ドラマに倫理の禁忌はなくなったのですかね? 秋の童話 の大騒ぎは昔の事なんですかね??って、チラと思ってしまいます・・(しつこい!w)

    ジョンフへの熱き思いは胸に・・・ プロデューサー と マイシークレットホテル 見始めました。朴訥としたスヒョン君が好みではないですが~w 楽しく見てます。 また、ホテルは タルタル様が 現代劇では あらあら~って、感じです。

  2. yuca

    chocoさん、コメントありがとうございます♪

    お待たせし過ぎました「キルヒル」感想。お待たせし過ぎて気の抜けたビールみたいな感想だし・・・(汗;;)
    何しろ1カ月前に視聴が完了している作品でしたので。
    やっぱり見終わった熱い気持ちで感想は書かないとだめですよね。妙にクールになっていますね、読み返すと。

    >最後まで見ると リジンを見守る 温かいお話に全てが繋がっていました。心憎い脚本でしたね。
    chocoさんの感想の方が的確ですよ!そうそう。
    序盤はねセギ頑張れとか思ったのですが、終盤になるにつれて主人公たちがどんな傷を持っていようが、復讐などに囚われず彼らが彼ららしく生きていければいい。
    そう願っていました。
    ラストの日の光を浴びる2人よかったですよね。
    やっと彼らは地下室から抜け出ることができたのでしょう。

    義兄弟問題があるからこそ、あえて戸籍は戻さないのでしょう、やっぱり(笑)
    しかしこの家族関係もややこしいよね。何が何だかさっぱりですよ。

    >ジョンフへの熱き思いは胸に・・・
    ジョンフを見るとね、なんだか他の作品がちょっと色あせちゃうのだけれども。
    「プロデューサー」「マイシークレットホテル」途中まで視聴してほったらかしているので、ここらへんも視聴再開しなければ。