秘密

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秘密 Secret 全16話 (2013年 韓国KBS)

■演出:イ・ウンボク、ベク・サンフン
■脚本:チェ・ホチョル、ユ・ボラ
■キャスト:
チソン(チョ・ミニョク)
ファン・ジョンウム(カン・ユジョン)
ペ・スビン(アン・ドフン)
イ・ダヒ(シン・セヨン)

■あらすじ:
愛を信じなくなった男がいる。ありあまる財力、魅惑的な容姿、全てを持っているようで、何一つ持っていないミニョク。
愛を信じる女がいる。恋人のために尽くし、全てを投げ打って、結局全てを失ってしまうユジョン。
そんな二人が事故をきっかけに出逢う。恋人を殺した犯人として、ミニョクの前に現れるユジョン。
ユジョンへの復讐から始まったミニョクの執着の行きつく先は・・・


 

本当に面白かったです。
韓国ドラマに疎くなりつつある私ですが、なんとなくアンテナにひっかかるものを感じて視聴し始めました。
「秘密」に関しては、放映前はあまり話題になっていないようでしたが、このドラマを見つけることができた自分の嗅覚を褒めてあげたい(笑)

ジェットコースターのようなドラマ展開、俳優の迫真の演技、胸に響くOSTと、久しぶりに面白い作品を観たなぁ~
とにかく主役4人の複雑に絡んだ愛憎、利害の心理戦・頭脳戦が圧巻。息を殺して視聴するので、1話があっという間。こんなに緊迫したドラマは久しぶりかもしれない。
正統派のロマンスということでしたが、韓国ドラマの定石の設定を用いながらも、なんだか新しい視点を取り入れているような気がします。
「嵐が丘」「緋文字」「太陽がいっぱい」と古典作品へのオマージュもあり、ドストエフスキーの「罪と罰」をも視聴しながら彷彿としました。

「復讐」がテーマの一つです。
従来の韓国ドラマならば人間の情念のおどろおどろしさばかりクローズアップする(「福寿草」のように・・・)けれども、ちょっと違う視点でこの復讐の行きつく先を見せてくれました。

涙(雨や川)の中に沈む様々な秘密を見せてくれました。
タイトルバックがドラマの途中に差し込まれるのも、斬新で面白い。
16話で秘密に対する一つの回答を視聴者の前に露わにしてはいるけれども、実はなんだかまだ秘密があるような気がしてなりません。
芥川龍之介の「藪の中」のように、真相は一つではないのかもしれない。
様々な登場人物がそれぞれの真実を持っていて、それをこっそり涙の中に隠している。
ただ、一つ確かなのは、物語の発端となった事故の瞬間に様々な「殺意」が渦巻いていたことは確かです。

「殺意」が渦巻く瞬間、事故が起こったのね。

 

■ 屈折した男、ミニョク ■

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最初は、ミニョクに夢中でした。
恋人を失ってしまった彼は、ユジョンに復讐という執着を始めます。親のコントロールから逃れることができない彼の、唯一、自分が自分であると感じる瞬間だったから、その復讐が。その執着が。
ユジョンに関わる時だけ、親の支配下ではなく、自分の意志で動けたから。
物語の冒頭、ラジコンカーをコントロールするミニョクは、彼自身の置かれている立場の暗示でもあったのかな。

母を失った息子でもあり、自分の子供を失ったミニョクが、母性の象徴であるユジョンに惹かれていくのは必然。
復讐が執着になり愛着になり、そしていつしか、愛しかたを覚えていったミニョク。
面白いのは執着が愛と紙一重だと見せてくれるそのストーリー展開。
復讐のために執着しているはずなのに、いつしか愛のために執着しているという。
その展開がスリリングで、ドラマの奥行きを出している。
ミニョクもかなり混乱していましたが(当たり前よね)、自分が何故、ユジョンから離れられないのか。

面白いことに、ミニョクが愛しかたを覚えるにつれ、ぎらぎらしたどこか渇望した雰囲気はなりを潜めて、ユジョンのように他人を受け入れ、思いやることができる男になっていくのよね。

 

 

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なんだかいい人になりすぎて(笑)、物足りなくなりました。
恋人を殺した女と恋に墜ちるという究極の設定なのに、ビターではなくソフトな展開なので(爆)
ミニョクがユジョンに執着するのは、ドフンとユジョンの関係に焦がれていたからだとも思っています。
全てをなげうってでも恋人のために尽くすユジョンの愛の形が彼は、欲しかったのです。
それは、母親から子供がもらう愛の形によく似ているのかもしれない。
見返りを求めない愛。

a0192209_23262586おやおや、そんな風に考えるとミニョクは隠れマザコンですね。
ユジョンの家で食事をする様は、まるで子供のお喰い初めのようでもありました(笑)
とにかくミニョクのツンデレぶりを楽しむのが醍醐味です。

 

 

 

■ 母性の象徴、ユジョン ■
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何度彼女に泣かされたことか。
ユジョンが見せる愛の形が、韓国ドラマではちょっと特異であるかもしれない。
執着よりも全てを手放す愛。
彼女はいつも自分を犠牲にする。
「罪と罰」のソーニャのように、社会の底辺にいながら誰よりも貴い愛を貫こうとする女。
「秘密」では最下層にいるユジョンこそが聖女のようであり、周囲の男たちを感化していく。

執着の塊であったミニョクは、愛するからこそ手放すことを覚える。
エゴイスティックなドフンは、セヨンのために罪をかぶると叫ぶ。
そう、まるでユジョンがしてきたことと同じことを16話で男たちは真似るのだ。

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ユジョンがマクチャンドラマのヒロインと違うことは、例え復讐すると誓っても、その復讐の方法は法にのっとって・・・である。
決して自分の手で他人を陥れることはしない。あくまで正攻法でドフンに迫る彼女を観ていると、新鮮な驚きと、感動に溢れてくる。
何よりも最後まで彼女はぶれない。
愛する人のためならば、彼女はいつも手放すのだ。息子でさえも。
決して復讐に囚われずに、全てを受け入れることで新しい人生を歩もうとするヒロイン像はすがすがしくて、好きだなぁ。

 

 

 

■ 愛しのドフン ■
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何よりも「秘密」ではドフンに心奪われます。
どうしてそんな選択をするのか。彼の選択はいつも間違っている。
実はどこまでも墜ちていく人間はドフンだったのね。

ミニョクとドフンはコントロールフリークの親のもとで育ったという表裏一体の存在。どちらかが輝けば、どちらかは闇に沈む。
ミニョクがユジョンと知り合うことで、人間として成長していく速度と同じくらい、ドフンは闇に沈んでいく。
そんなドフンが愛おしくって、愛おしくって。

ミニョクが愛を知ることで親の支配下から逃れるすべを覚えたけれども、ドフンは上昇志向で親の支配から逃れようとする。
しかしあまりにも激しく強烈な上昇志向は、破滅志向でもあるのね。
破滅することで親の支配から逃れる・・・なんて悲しい生き方でしょうか。
ドフンの様々な選択は、実は親の元から離れたい、それが動機だったような気がします。

恋人を殺した女に執着するミニョクは一見、複雑に屈折した性格に見えて実は単純な男でもあるのです。自分の全てを受け入れてくれる女を探し求めていただけで。
しかし恋人に罪を着せ、彼女の親を見殺しにしながら、平気で恋人に微笑むドフンの方がはるかに屈折して、闇は深い。

 

 

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光輝いていた男が、様々な選択の末に闇に墜ちていく。
そのサマが身震いするほど、哀しくて。
あの雨の日、その瞬間に渦巻いていた「殺意」にがんじがらめになって闇にどこまでも墜ちていった男。

ペ・スビンが圧巻に演じてくれました。
「49日」のカン・ミノ役も大好きでしたが、ドフンもまた、忘れられないキャラクターです。
人間の弱さ、エゴイスティック、愚かさ、卑怯さを、あますことなく見せてくれた。
そして、その闇は誰の心の奥にだってあるものなのだから。

そんな闇に沈んだ男にだって、一瞬の光があることも見せてくれました。セヨンのために奔走する彼は、まるで失ったユジョンとの愛を重ねているようでもあり。
自分だけを見つめてくれる女を探し求めているようでもあり。

本当に、哀しい男。
だから私ぐらい、彼を愛おしいと言ってあげたい。

 

 

 

■ 壊してしまう女セヨン ■
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ユジョンの愛より、セヨンの愛の方がよくわかる。

彼女もコントロールフリークの親で苦しむ人物。だから破壊願望が強いのかも。
「手に入らないなら壊してしまう」そんな報われない愛。
ユジョンが全てを手放す愛ならば、セヨンは壊す愛なのか。
ユジョンとセヨンも表裏一体です。

 

 

 

■ グァンス ■
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正統派シリアスメロドラマなのに、どこか乾いたユーモアがあるのはグァンス君始め脇役が味があるキャラクターだからなのかも。
ミニョクがドラマの中で「グァンス」と呼んだ回数が、「ユジョン」と呼んだ回数より多いという記事を読んで、思わず笑っちゃいました。
それだけグァンス君は大活躍。

愛を信じない主人ミニョクの元で、愛はあると思いたかったグァンス君。復讐の行きつく先を彼は、その目で見届けたわね。

 

 

 

■ 復讐の行きつく先 ■

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「秘密」というドラマは深読みしようと思えば、どんどん深くなるような気がします。
実は復讐の行きつく先は、「バリでの出来事」のような結末になると思ったのですが。
あまりのハッピーエンドに、ちょっとクラクラときました。そうくるかーっ!?って(笑)
「嵐が丘」なんてあまりにも意味深なオマージュを出してくるので、てっきり「狂気」か「死」だと思ったので、結末は。

しかしこのドラマがそんな結末を迎えなかったの、やっぱりユジョンのキャラクターでしょうね。
全てを受け入れて、静かに笑う。恨みや悲しみや怒りを押し殺して笑う。
彼女の優しさは、復讐さえも凌駕して、世界を愛であふれさせる。
そういう意味でやっぱり韓国ドラマらしからぬヒロインのような気がします。「恨」を越えたところに実は幸せがあるんだよ、みたいな感じ。
ユジョンが聖母であるから、全てを「赦す」んですものね。
「復讐」「執着」「犯罪」のドラマでありながら、最後は自らの罪を(闇を)受け入れ、償い、そして赦す、なんてものすごい宗教的なものも感じるわ。
「罪と罰」のソーニャがユジョンであり、ラスコーリニコフはドフンでもあり。

今年視聴してきた韓国ドラマの中では、とにかく1番面白いわ。
久しぶりの韓国ドラマOMG★★★★★です♪


考察+感想

 

その時々の、私の心の琴線に触れたモノ・・・ 小説や、映画、音楽、ドラマ、ファッションについてだけの簡単な備忘録。 Everything was beautiful and nothing hurt.

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  • コメント ( 8 )

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  1. moonlight-yuca

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    ♪鍵コメさま、コメントありがとうございます♪

    初めまして。「ブレイン」の感想も読んで下さったなんて光栄です。あれはハギュンのためのドラマでしたものね~
    がっつりハマりました。
    「私の恋愛」・・・確かに胸やけがする(爆)
    ヒロインがちょっと苦手で途中で止まっているのですが、ハギュンもみたいし、悩ましいドラマです。

    「秘密」本当に、面白いドラマですよね。
    絶対、色々と深読みをしたらもっと面白いと思います。小道具も色々計算されていますしね。
    しかし、そんなことよりも主役4人の心理戦が、一番面白いんですよね。

    イ・ダヒの「手に入らない愛なら壊してしまう」という切なさにも涙したし、ファン・ジョンウムの涙には毎回溺れそうだったし。
    チソンとぺ・スビン!
    圧巻ですね。

    おっしゃる通り、やっぱり今年度1番のドラマだと思います。こういうドラマがあるから、韓国ドラマ視聴がやめられないんですよね。

    また、お時間のある時に遊びに来ていただけたら嬉しいです~♪

  2. choco

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    yucaさん こんにちは
    こちらへもおじゃまです(^.^)

    見終わりました。
    前半のはまり具合と 後半は少しちがいました。
    実は、1話は結構かったるく・・ またドロドロ復習劇か~と。
    チソンはどれ見てもいつもチソンで(汗)見るたびにがっかりで・・・
    ファンジョウムは お顔が人工的で お首とお顔の色ちゃうやん!だし・・
    ペスピンは 49日みたいなのかなぁ~  と、

    でも、チソンが違いましたね!
    前半のチソンは熱演でした ブラボー!
    訳の分からない感情を 周囲にぶつけ、そしてユジョンに執着し・・
    あのストーカー チェゴ~!

    ただ、後半は二人のラブラインが多くなり(必要なのは承知ですが・・)
    チソンがいつも 育ちのよいチソンで~
    私的には残念でした。

    事件の前は いつも周囲のせいにしていたミニョク
    事件後 すべてを周囲のせいにして逃げたドフン
    この反転が心に残りました。

    かなりはまった作品でした(*^_^*)

    ピョルクデの記事で 聖ロザリンド! wwです
    その前の ガラスの城 も思い出しました

  3. moonlight-yuca

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    ♪chocoさん、コメントありがとう~♪

    >実は、1話は結構かったるく
    うん。4話くらいからハマりました、チソンがストーカーになった頃から(笑)
    あの演技はよかったですよね。

    私は、ミニョクが横断歩道で初めてユジョンの名前を読んだ時が、ハマり度MAXでした。
    その後はおっしゃる通り、なんだかつきモノが落ちたようなモノわかりのいいミニョクになってしまって、残念。

    その代わり、ドフンがここまで墜ちるか!
    というなりふり構わない鬼気迫る感じが泣けてきた~
    なんだか破滅願望があったみたいです。

    「秘密」はもうすぐKNTVで放送開始なのでもう一度見たいな、と思う作品です。
    とにかく訳の分からないパワーがある作品ですよね。

    こういうドラマに出逢えるから、韓国ドラマって面白いな、って思うんですよね。
    「ピョルクデ」とは違う意味で、楽しめるドラマでしたよね。

    > 聖ロザリンド! wwです
    うふふ、すぐにマンガと比較して考えてしまう私です。

  4. himeka_kisaragi

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    こんばんわvv
    ネタばれは読んでいません。(笑)
    他の方のコメントも読んでいません。(笑)

    最近、DVDを貸してくださる方がいて、私がリクエストするわけじゃないんですが、勝手に貸してくれるんですよ。(笑)

    で、今は別なのを見てるのですが、今日、この「秘密」が来たんです。
    見始めるのは、明後日くらいになるかもしれませんが、どんなドラマか知らなかったので検索してみたら、yucaさんの感想がヒットして、ちょっとだけ目にしたら、すごく面白かったという感想だったので安心しました。(笑)

    予告だけ見たことあるんですが、なかなかザ・韓ドラ(笑)な感じがしたんですが、復讐劇なんですかね。

    yucaさんが面白かったなら、きっと楽しめそう。

  5. moonlight-yuca

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    PASS:
    ♪ひめかさん、コメントありがとうございます♪

    おおお、「秘密」に行かれるのですね!
    実は昨年度の私の唯一どハマリしたドラマでございますよ「秘密」は。

    >DVDを貸してくださる方がいて
    なんてありがたいご友人なのでしょうか。
    きっとひめかさんのブログの愛読者に違いありませんね(笑)

    >なかなかザ・韓ドラ(笑)な感じがしたんですが
    ねたばれなしでお返事しなくちゃいけませんが、そうそう「ザ・韓ドラ」なのですが、あれれれ~みたいな展開をしていきます。
    妙に展開のずれ具合が新鮮で、夢中になって視聴しましたもの。

    ひめかさんも気に入ればいいのですが。
    ぺ・スビンに胸を痛めて観ていましたよ、私。
    でもチフンもいいし~

    ひめかさんがブログに感想を書かれるのを楽しみにしています♪

  6. himeka_kisaragi

    SECRET: 0
    PASS:
    途中まで観ましたが、面白いですねぇ~~
    最初、すごく重くて、キツイな~って思ったんですが、5~6話くらいから、俄然面白くなってきました。

    ペ・スビンさん、実はあまり得意じゃなくてですねぇ~・・・・
    なので、ひょっとして今回はyucaさんとは若干違う感想になるかも。

    その分、チソン、ダメダメ坊っちゃんだけど、可愛いです。(笑)
    あの秘書とのやり取りとかも、一服の清涼剤です。(笑)

    最後まで観てみないと、こういうドラマは分からないとは思っているので、決めつけずに観ようとは思っているのですけどね。(*^_^*)

  7. moonlight-yuca

    SECRET: 0
    PASS:
    ♪ひめかさん、コメントありがとうございます~♪

    >最初、すごく重くて、キツイな~って思ったんですが
    このキツさが癖になるんですよね。
    この後の展開がまったく読めなくて、1話の1時間があっという間に過ぎていく。
    「秘密」に関しては、まったくノーチェックだったので、出会いがしらにこういう奥深いドラマに出会っちゃうから韓国ドラマやめられないのですよね。

    >ペ・スビンさん、実はあまり得意じゃなくてですねぇ~・・・・
    私もミニョク派ですが、しかし私ぐらいドフンを好きになってやらないと・・・という義務感もありますよ(笑)
    そのくらい、後半になるにつれてしんどくなります、ドフンは。
    秘書君いいですよね。
    韓国ドラマは主従関係を描くのが上手。
    どのドラマでも、こっそり主従萌えしていることを、ここでこっそりカミングアウトします(爆)

    韓ドラは最後がっかりということが多いのですが、最後まで緊張感が途切れることなく楽しめたドラマです「秘密」は。

  8. yuca

    鍵コメさま、コメントありがとうございます♪

    「秘密」完走、おめでとうございます!
    ザ・韓国ドラマチックなのに、妙に定番をずらしているところがこのドラマ斬新で好きです。
    「秘密」はね、本当に色々な意味で衝撃で、まだまだ韓国ドラマは面白いと再認識させてくれたドラマでもありましたよ。
    なんだろうね、この強烈なインパクトは。
    むちゃくちゃな設定なのに、次が気になって仕方がない、引きずりこむ力を持っている。

    鍵コメさまが放心状態になるのもわかります。

    またこんなドラマにいつ会えるのかしらね。