普通の恋愛

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普通の恋愛 Ordinary Love 全4話 (2012年 韓国KBS)

 

■演出:キム・ジヌォン
■脚本:イ・ヒョンジュ
ユ・ダイン(キム・ユネ:観光案内所職員)
チュ・ユヌ→ヨン・ウジン(ハン・ジェグァン)
キム・ミギョン(シン女史)
イ・ジュシル(ユネの祖母)
イ・ソンミン(キム・ジュピョン:ユネの父)

【あらすじ】
観光案内所職員のユネ(25)は他人に迷惑をかけず静かに生きていこうとする完璧主義者。
彼女の時間は18歳から止まっている。なぜなら、彼女の父ジュピョンが、7年前殺人事件の容疑者として目を付けられ、現在も指名手配されているからだ。そのために、彼女は人々に疾視され傷ついて生きてきた。そんな中、ある日彼女の前に見ず知らずの男ジェグァン(27)が現れ、彼女の周囲をうろうろし始める。そして次第に彼はユネを好きになり、両者の距離はますます縮んでいくが・・・二人の前に残酷で理不尽な現実が立ちはだかる。果たして二人は彼らが夢見る「普通の恋愛」をすることができるだろうか?


 

 

本当にいいドラマ。面白いドラマというのではなくて、胸にじんわりしみ込む、悲しくて、いいドラマ。
前回考察したように、「赦し」のドラマでしたねぇ、やっぱり。
不器用な人たちがが、この不条理な世の中で、どう生きていくかを、包み込むような視点で描いていく。ただのヒューマンドラマか、と思うと、二転三転していくストーリー展開に驚くだろう。

セリフだけで、登場人物の心情を説明せずに、「光」「手」「足」などのカット、写真やコインといった様々な小道具で、全州韓屋村を背景に映像全てを使って表現していくのよね。
セリフで全てを語りすぎる、他のドラマと比較すると、物足りなさを感じるかもしれないけれども、その静かな画面を通しての、人物たちの心の動きにいつしか引き込まれていく。

そもそも「普通の恋愛」なんて言葉は、ある種の矛盾をはらんでいて、「普通」なんてことは実はありえないのだ。誰にとっても恋愛は特別なことであるのだから。
しかし、そんな人生にとって「普通=特別」なことすら望んではいけない、と自分を罰するユネに、胸が痛くなる。

 

 
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父が犯した罪を背負い、光から顔をそむけて、淡々と生きてきたユネ。まるで修道女のようなその佇まい。白いブラウスにアイロンをかけ、ファーストフードも行かず、恋愛もしない。

 

 

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背中しか撮らないカメラマン。他人にも自分の背中しか見せない、ジェグァン。
彼は、誰かと向かい合ってコミュニケーションをとることができるのだろうか。

こんな、心に傷を負った2人が出逢って、惹かれあって、織りなすエピソード。

以下、結末に触れています。

このドラマを見ながら、「検事プリンセス」を思い出しました。
殺人者の娘と被害者の家族が、殺人という事件によって出逢い、「復讐」と「愛」の板挟みになって、苦しむ・・・という設定が一緒だわね。
「普通の恋愛」が好きなのは、「復讐」に主題を置いていないことかな。
韓国ドラマは、ともすれば、いかに復讐するか、復讐しなければいけない、ということに主眼を置きすぎて、視聴していて苦しくなる。
しかし、「普通の恋愛」においては、凄惨な事件によって、心に傷を負ったのは、被害者家族はもちろんだが、加害者家族も深い傷を負っている・・・ということを描写していく。

ユネは自分の父が、殺人を犯した、と知った晩、コートを着たまま湖に飛び込む。自殺しようとして。
死に切れなかった彼女は、その後の人生は、その水を含んだ重いコートを・・・父の罪を背負って、修道女のように生きるしかなかった。光のいる世界を避けて、暗闇で。
楽しみも、喜びも、「普通」の生活は自分に禁じて。

ジェグァンは、湖に飛び込んだユネの背中を追っかけながら、助けることをしなかった。
以来、彼は、他人に背中しか見せないし、背中越しでしかコミュニケーションをとらなくなる。例え肉親であろうと、恋人であろうと、正面から向き合わなくなる。

そんな二人が出逢ったら、お互いの孤独がどうしようもなく引きつけられて、この世界で同じ傷を持つモノ同士だから、惹かれあう。
特殊な環境下の2人が、「普通の恋愛」をしたかっただけなのにね。

 

 

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心に同じような欠落を持つ2人だけれども、決して手を握り合うことは、互いの体温で互いを慰めることはできなかった。
彼らの手は、あんなにも、互いに手を繋ぎたがっていたのに。
あんなにも、手を差し伸べていたのに、結局はすれ違ってしまった。ほろ苦い結末しか、用意されていないのよね。
しかし、出逢うことによりユネは重いコートを脱ぎ棄てて、光の中に走っていったし、ジェグァンは正面からの写真を、誰かと向かい合って対話することができるようになった。
互いの欠落を埋め合わすもの、お互いが相手に残した「普通の恋愛」の思い出、「写真」「コイン」で、傷を癒していくのだろうなぁ。

 

 

 

a0192209_1946286傷が癒えたた時、ユネとジェグァンは出逢うかもしれない。出逢わないかもしれない。
彼らがまた、いつかすれ違えるように・・・そんなことを、強く思った。
そんな優しい気持ちで、このドラマを視聴することができた。

人生は甘くないけれども、どこかに救いはあるのよね。殺伐とした事件を扱いながら、久しぶりに優しく温かい気持ちにさせてくれるドラマだったわぁ。

 

 

★★★★★

 

 

その時々の、私の心の琴線に触れたモノ・・・ 小説や、映画、音楽、ドラマ、ファッションについてだけの簡単な備忘録。 Everything was beautiful and nothing hurt.

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  • コメント ( 4 )

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  1. はる

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    yucaさん、こんにちは^^

    見ることができましたぁ~
    ドラマを見ながら
    ユネの心情
    ジェグァンの心情
    静かに心の声に耳を傾けながら視聴しました
    yucaさんのレビュー
    なるほどな~そうだな~と
    答えを確認するように読ませて頂きましたよ

    台詞のない二人のしぐさで伝わる心情
    心揺さぶられるドラマでした
    上の、ユネが手で光を遮るシーン
    悲しみが伝わります

    二人の恋愛で語る事はたくさんあるのに
    あえてこの人デス(汗)
    凶悪犯の父役イ・ソンミンさん
    この俳優さん、色んな顔を見せてくれて
    その存在感もすごいですよね
    以前、ブレインでハギュとのやり取りも圧巻でした
    最終回、ソンミンさんのチャーミングな演技が
    Mnetの放送ではカットされてました
    いいシーンだったのに…

  2. moonlight-yuca

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    ♪はるさん、こんばんは~♪
    お返事遅くなって、ごめんなさい(汗;;)

    >ユネが手で光を遮るシーン
    悲しみが伝わります
    セリフで語られなくても、こちらの心にじんと伝わってくるものがありますよね。
    「普通の恋愛」は地味なドラマかもしれませんが、いいドラマですよね。もっと多くの方に見ていただきたいドラマですよね。

    >凶悪犯の父役イ・ソンミンさん
    「the king 2 hearts」ではものすごくかっこいいので、視聴してくださいませ。惚れること間違いなし!(笑)
    ブレイクしていますよね、この方。どんな役でも上手に演じられます。
    「普通の恋愛」では彼があんなことしなかったら・・・と信じられない行動をとるけれども、人間って思いもかけずに、とっさに行動してしまう弱い部分が、誰にだってあるんだろうなぁ、と考えました。
    悲しいけれども、どうしようもないけれども、綺麗事だけではない、卑怯さ、ずるさを演じてくださいましたね。

    >Mnetの放送ではカットされてました
    えええ~、そうなんですか!ショック・・・

  3. こなつ

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    初めまして!!こんばんは
    今日初めて普通の恋愛を見ました!!
    韓ドラは親が見ていますが、やっぱり復讐とかそう言うのが多くて私は、韓ドラが苦手です;;でもこのドラマは、そんなことなくて、見てて苦しいし悲しくなるけど、暖かい気持ちになるドラマですね!!!! こういうドラマもあるんですね☆素敵です

  4. moonlight-yuca

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    ♪こなつさん、コメントありがとうございます♪

    はじめまして!
    こんな僻地のブログに書き込みを下さってありがとうございます♪

    「普通の恋愛」は韓ドラらしくなかったですよね。
    人生は甘くないし、つらいこともたくさんあるけれども、光はあるんだと教えてくれたドラマです。

    >復讐とかそう言うのが多くて私は、韓ドラが苦手です
    これだけ韓国ドラマ見ている私が言うのもなんですが(笑)、私も復讐モノは不毛なので苦手ですが、韓国の人は好きですね。
    国民性の違いでしょうか。

    もっと「普通の恋愛」のような、胸にズシンと来る作品を作ればいいのに・・・と思います。

    また、こなつさんのお時間のある時にでも遊びに来ていただけたら、幸いです★